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第5回「地域企業のためのSDGs&DX経営実践のコツ」開催レポートーMIYAX DIGITALによる地域企業の価値創造支援

2023年1月16日(月)東北大学片平キャンパス知の館を会場およびオンラインのハイブリッド形式で、東北大学知のフォーラム・社会実装プロジェクト産学連携セミナー第5回「地域企業のためのSDGs&DX経営実践のコツ」が開催された。
今回のセミナーでは、高橋蔵人氏(株式会社ミヤックス代表取締役社長COO / 東北大学データ駆動化学・AI教育研究センター特任准教授)より、「MIYAX DIGITALによる地域企業の価値創造支援」というテーマで講演いただいた。
 具体的には、「DX」と「AI」の定義を行った後に、宮城県におけるDX支援の取組の事例紹介があり、最後にミヤックスの産学連携の取り組みを説明いただいた。地域企業のサステナビリティ経営とDX経営を両立させるうえでのコツの共有が今回の講演の主題であった。

〇高橋蔵人氏のこれまで
 2018年、AIベンチャー、aiforce solutions社を共同創業し、2022年5月にAI inside社に約16億円で事業売却しexitした。airforceでは、AI民主化による 『誰もがテクノロジーを使いこなし社会課題の解決に貢献できる、今より一歩進んだ世の中』 の実現を目指してきた。その理念はなお売却先でも生き続けている。現在では、日本の大手企業のDX・AIコンサルティング、企業や大学でのデータ×AIの人材育成、創業75年の老舗地元企業の経営、という3領域で活動している。

高橋蔵人氏(株式会社ミヤックス代表取締役社長COO / 東北大学データ駆動化学・AI教育研究センター特任准教授)

〇株式会社ミヤックス
1948年に宮城県栗原市に創業し、75年経営を続けている老舗企業である。遊具の設計・製造・販売やオフィスのデザインを手掛け、長年にわたって遊具事業とオフィス事業の二本柱で事業拡大してきた。近年では、100年企業を目指し、データやAIを活用した新たな事業「MIYAX DIGITAL(ミヤックスデジタル)」にも取り組んでいる。そういった事業も活用し、「三方よしの理念を遵守し、社会の発展に貢献する」という社是のもと、時代の流れの中で「価値」に重点を置き、主事業とデータを組み合わせて価値提供することを意識してきた。地域企業でもDX経営による企業変革はできることを世の中に示すことを心掛けている。

〇DXと企業変革
「地方の中小企業はDXという言葉だけでは進まない」―こう語る高橋氏の言葉には経験に裏付けされる重みがある。世の中全体でDXが叫ばれる中で、「結局何をすればいいかわからない」という状態に陥る企業(特に地域中小企業においては)が大半だと確認したうえで、氏はKPIを売上と紐づけて従業員を納得させてから、DX化に向け走っていくというプロセスを提唱する。
高橋氏はDXを「現状(As-Is)を①デジタル技術の組合せと②データ活用で競争力のあるミライ(To-Be)の事業活動に転換・変革する」と定義する。地方の中小企業が、デジタル時代を生き抜くためには、重要な経営資源となっているデータを活用し、自分たちの本業の発展に使うことが大事だと高橋氏は話す。そして、このデータをうまく活用し本業に結びつけるためには、AIの理解がとても重要になる。

〇AIとは
高橋氏によれば、AIには二種類ある。AIを未来と現在の二種類に分類することで、理解が深まるという。未来のAIは汎用型AIと呼ばれ、AIが自律的になんでも行える状態を指す。現在のAIは、人間の知能の一部を代替できるものとして特定型AI(弱いAI)と呼ばれている。ビジネスにおけるAIの活用のほとんどが「教師あり学習」であり、これは現代の私たちは特定型AIを活用しているということを意味する。AIの利用可能範囲を共通認識としてもつことで、自分たちのビジネスに沿ったAIを導入できるようになり、それが事業のデジタル化に繋がるのだ。

〇宮城県でのAI活用の状況と事例
講演の中で、高橋氏からは宮城県下のAI導入例が紹介された。その中から2つの事例を抜粋し、以下に示す。
1) 七十七銀行(仙台市)のマーケティング部門での活用について
AI未経験の社員でもビジネスでAIを活用できるサービス「AMATERAS RAY」が提供された。このサービスの利用によって、AIの専門家では無い銀行員が、自らAIモデルを短期間で構築しデータ分析を行うことが可能となり、機動的かつ広範囲の業務にAIを活用できる。また、データを根拠にお客様のニーズを分析することによる最適なサービス提案や、管理業務の効率化など、銀行業務の高度化が推進される。地域金融機関のノウハウを最大限活用した事業戦略と言える。

2)藤崎(仙台市を中心に事業展開する百貨店)での導入事例について
藤崎はミヤックスと株式会社EBILABと協力し、「藤崎3Dバーチャルショップ藤崎『伊達CRAFT』」にWEB来店の仕組みを導入した。「伊達CRAFT」は東北・宮城の伝統工芸品や現代作家によるアップデートされた工芸雑貨などを扱うセレクトショップである。具体的な仕組みとしては、店舗内を3Dカメラで事前に撮影し、3DバーチャルショップをWEB上に作成した。これは、店舗への来店が困難な顧客の場合にも、実際に店内を回遊し、商品を手に取る感覚で買い物ができるという、まさに顧客ニーズに合ったAI導入であったといえる。

〇地方の課題を産学提携で解決
AI教育現場の現状として、実務性がなく、方法論を教えることに留まってしまうという課題を高橋氏は指摘する。そのような課題を解決するべく、立ち上げた事業が地域の企業と学生を繋ぐDX支援である。具体的にはAIを活用したい企業と、AIを学ぶ学生を繋いでDXを支援するという新事業である。この事業を立ち上げた背景には、ミヤックスデジタルの事業を通じて得たAIの知見を活かして、大学で文系学生にAIやデータサイエンスを教える中で、大学・学生・企業の三方がそれぞれ課題を抱えていたという事実があった。
大学の課題は上記の通りで、学生の課題は、実際に企業や社会でどのようにデータやAIが活用されているのかわからないことにより本質が理解できず、学びのための「リアルデータ」に触れられないということである。そして企業には、データ活用のノウハウがないにも関わらず、データサイエンスやAIを専攻してきた学生を採用してしまうという課題があった。
こういった課題を受けて高橋氏は、企業の実データを使って、学生が解析を行い、理論だけでなくKPIや売上、利益を念頭に置いた上でのリアルなデータ活用が行える場を提供している。それは小売業における適切な販売予測に基づく食品廃棄の低減や、飲食店における顧客増のための施策などに活かされている。本事業での利益がほとんどないと打ち明けながらも、地域の企業・学生両方に意義のある取り組みであると語った。高橋氏の狙いの一つは、この事業を通して、地元に残る学生が増えることである。

講演の様子

〇まとめ
地域企業がDX経営を実践する中で、まずは「事業をどうしていきたいか」を決めることが重要であるというのが高橋氏のメッセージである。デジタルが先ではなく、本質を理解してどういうビジネスになるべきかを考えたうえで、手段としてDXが必要なのかを見極めることが最も重要になるということだ。

(文;東北大学経済学部生 青木佑斗、大学院経済学研究科准教授 高浦康有)

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