りくとりんご

第2話 : 「今年のりんごは出来が良さそうだ」

春。冬のあいだ眠っていたりんごの枝に葉っぱが芽吹き、白い花が咲いたら、りんご農家の忙しい時期がはじまる。

夜明け前。朝の4時ころになると、ここ赤沼地域では赤いSS車(農薬散布のための農業機械)があちこちで動き始め、住民の活動時間までに散布を終わらせようとせっせと働く。

薬散にはルールがあって、
日中の時間には撒かないこと、
地域の農家ができるだけ同じ日に撒くことになっている。

散布作業が終わると、一面に咲いた花の花摘み作業が、そして、あっというまに実がつけば、実の摘果作業が、初夏のおそい日暮れ時まで続く。

ここのスタッフである僕は、去年からフルプロ農園で働ている。
それまで農作業の経験はなかったので、薬散や摘果など、去年はすべてがはじめてだった。

薬散は上手に撒かないと、樹が病気にかかって葉っぱが落ちたりする。
そうすると、葉っぱからの光合成が減ってしまって樹にちゃんと栄養がいかないので、甘くて美味しいりんごにならないのだ。

散布作業も、去年はなかなかうまくできなかったところもあったが、今年は去年よりも上手くできた実感がある。

病気にかからず元気で丈夫な樹になれば、来年以降もしっかりといいりんごができる。秋の収穫期にどんなりんごに仕上がるのか、今から少し楽しみだ。

『きっと、今年のりんごは去年よりみずみずしくて甘くて、いいりんごができるぞ...!』

8月、早生品種の「夏あかり」「シナノリップ」を出荷した。これはまだまだ序盤だ。
9月は「シナノドルチェ」と「紅玉」、10月の上旬には「秋映」と「シナノスイート」。

そして、10月後半からは本格的にりんごシーズンの到来だ。
「シナノゴールド」「王林」と、黄色いりんごの収穫が終われば、いよいよ本丸である「ふじ」の収穫期。

...とその前に、週末は台風の予報が出ているので、少し早いが「シナノゴールド」を収穫して倉庫に納めた。

台風の風でりんごが落ちてしまわなければいいが...。
10月12日の夕方の時点では、風でりんごは落ちていないという知らせが入る。

よかった...。1年の労働と1年分の稼ぎが台風の風で落ちてしまっては大変だ。りんご達よ、なんとかこの台風を持ちこたえてくれ...。


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13日未明、知らせが入った。

風ではなく、千曲川が農園のすぐ近くで決壊し、畑の9割が水没し、事務所も、そして昨日スタッフが収穫したシナノゴールド、シナノスイート、出荷前のシャインマスカットを保管している倉庫も、屋根まで水没したという知らせだったーー。


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