風と岩と声

あの風が あの風が
岩肌を絆し溶かし
くぼみを作り
深い洞穴をこしらえた
それはあたたかな あたたかな
ふれるだけの風でした

あの声を あの声を
響かせてるのはその風さ
崖の淵を目で追った果て
心のような大穴から抜ける
それはひややかな ひややかな
割れんばかりの声でした

あの風が運んでくるんだ
ヒビの隙間から入り込んで
気づかぬうちに声になる
こもごもの感情の立役者
物言わぬ奏者

勝者は表舞台には立たない
穴だらけのカラダらの間
声だけが行き交うだろう
お腹を渦巻いて止まないもの
ひゅうひゅうと沸きせり上がるもの
正直になれよって
語りかけたのは誰の声

構造物のたち並ぶ姿は
虫歯に侵された街に
残った最後の永久歯
のぼせた街から甘い夢が
城が気球が灯台が
さっと勘定された末
余計なものは引き算で
ジェンガゲームに興じ出したせいで
虫食いの構造体
倒壊寸前で凍結決定
増えるばかりの穴を縫っては
細い風が入り込んで
笛のような悲鳴のような

風はいつでも吹いている
浮かない顔の風船を見つけては
声を吹き込み膨らませ
地に足つかない風船が
どこまでも飛んでいく

その風船が その風船が
どこでもなくなるまで
どうでもよくなるまで飛んでったら
それも確かに帰結なのだろう
太陽にもさよならしだしたから
点は僕の目からとうとう消えた

僕らを吹き抜けていく
あの無責任な
あの無尽蔵な
軽やかに吹き抜けていく風
それにつられて漏れる息すら
いったい誰の所有なのか


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