性衝動の魔力4

 クマと出くわしたときは、瞬時に闘ったり逃げたりできるように骨格筋をダイナミックに動かす心身の状態を作り上げる必要がありますから、交感神経のスイッチを入れて心拍、血圧、呼吸、発汗、瞳孔などを最適化し、他方では、内臓への血液供給を減らし、脳もシンプルな意思決定以外の機能は抑制されることになるでしょう。


 生殖行動の場合もダイナミックな心身の状態が求められるように思いますから、交感神経のスイッチが入って、心身の状態が最適化されるのでしょう。この際、クマとの遭遇時ほどの緊急性は必要ないように思いますが、その代わりに、パートナーの獲得という課題が立ちふさがります。ここで、動物種によっては、他のオスと命懸けの闘いに勝ち残らなければならない場合があります。メスに気に入られるために、踊ったり歌ったりする場合もあります。ヒトの場合も、基本的にはパートナーとの合意を得られないと生殖行動に至ることはできず、それまでの心身の準備は空しいものとなってしまいます。


 ヒトの性の特殊なところは、性の対象や目的が、必ずしも生殖行動につながらないところにあります。痴漢は性的興奮を求めて行われますが、生殖行動を目的としてはいません。アリエリーのエリート学生への質問の中にも、「靴」に性欲を感じるかたずねたり、閉経後と思われる女性を性対象とする可能性についてたずねたりするものがあり、これらの中にも生殖につながらないものが含まれています。このことは、パートナーとの合意が得られない場合であっても、何らかの満足を得られる場合があることを示しています。そのうち、被害者を発生させるものが性犯罪です。


 どのような性関連行動についても、交感神経のスイッチが入って、前頭前野の機能が低下し、冷静かつ合理的な思考や判断ができにくい状態でなされるものと思われますが、それ以外にも、性関連行動へと突き動かす仕組みがあります。それが報酬系です。どちらかと言えば、性関連行動は報酬系の問題として捉えられることの方が多いかもしれません。


 次回は、報酬系や依存の問題から性関連行動について考えたいと思っています。

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