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ボケ and/or ツッコミ

ボケとツッコミとは対照的なもののようだが、必ずしもそうではない。慰めの言葉が意に反して相手を傷つけてしまうことがあるように、ボケが結果的に相手に対するツッコミとなることもある。また、ツッコミを意図しながら表現としてはボケを装うといったことも可能である。抽象的な話をしてもわかりにくいので、どこの職場でもありそうな具体的な例を見てみよう。

専門的な知識や職人的技術を習得する必要がある某職場の新人研修期間中のことである。数人の新人にはそれぞれ先輩職員が指導役として付く。専門的知識に関しては指導者ごとの違いはないが、職人的技術に関しては指導者の個性が色濃く反映される。高度な技を身に付け、それを熱心に伝授しようとする先輩の指導を受けることが決まると、新人は自分を伸ばすチャンスを得られたことに喜びを覚える。同時に、その先輩の指導の厳しさに打ちのめされるのではないかといった不安から逃げ出したいような気持ちにもなる。

新人の指導役は、様々な指導者の個性に触れるために、一定期間ごとに交替する。その時が来ると、新人たちは、次の指導役が誰に決まったか、告知される。「宣告」という方が新人たちの気持ちには近いかもしれない。気持ちが揺れ動く時期である。

厳しい指導役を告知された新人が、現実を受け止めようと自分に言い聞かせながら席に戻り、近くの先輩に言った。

「〇〇さんの指導を受けると力がつきますよね!」

先輩は様々な事情を承知の上で新人に言った。

「力がつきる?」

気持ちに余裕のない新人は、自分が何を言われたか、しばらく理解ができないでいる様子であった。近くで聞いていた別の先輩はクスクスと笑っていた。

笑っていた先輩に聞けば、新人への一言は新人の意図を間違って捉えたボケのようでありながら、新人の言葉を別の意味にすり替えることで半ばからかい、半ば鼓舞するツッコミ的な要素もあることを指摘したかもしれない。ボケは同時にツッコミでもあり得るのだ。

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