性衝動の魔力3

 性的興奮下では、エリート学生の多くが欲望に突き動かされて、冷静なときと異なる理性に乏しい意思決定をしやすくなることを、前の2回で書きました。

 理性の中枢である前頭前野は、スイッチが切り替わると、途端に機能を低下させます。何のスイッチかというと、自律神経のスイッチです。副交感神経優位の状態にあるとき、クマと遭遇するなどして、闘争か逃走かという切羽詰まった状況に追い込まれると、戦ったり逃げたりするために、心身の状態が最適化され、脳もじっくりと理性的に物事を考える状態ではなくなります。
 危機が迫っていることを察すると、闘ったり逃げたりすることを迫られるほどでなくても、いつでも闘い、逃げることができるように、交感神経優位に切り替えて準備をします。ロールシャッハテストにおける「ショック」は、図版から危機を連想したときに、冷静なときのように論理的に説明することが難しくなるというものです。被験者自身は危機を自覚していな場合もあるでしょうが、皮膚電気抵抗を計ってみると、発汗(交感神経の働いている証拠)が見られるはずです。

 エリート学生が欲望に突き動かされるときも、合理的思考の中枢である前頭前野の機能が抑制されているのではないかと推察されます。もしそれとは異なるメカニズムによるとしても、種の保存はヒトにとって個体保存にもまさる重要なミッションですから、それに匹敵するくらいの基本的な機能が関与している可能性が大です。

 蛇足ですが、前頭前野による合理的思考を弛緩させることができれば、冷静なときにはできない思考ができるようになり、種の保存にとって有利となるだけでなく、常識的な対応が困難な事態を打開するアイデアが出やすくなることも期待できますから、このような仕組みがあることは、様々な場面でヒトの適応上有利です。
 性的興奮によってそのスイッチが入るような、神経系の仕組みがあるのでしょう。自律神経系がその役目を負っているのでしょうか。調べてみる価値はありそうです。
 更に妄想を膨らませると、性的興奮の状態を作ることで斬新なアイデアが出やすくなるのであれば、興奮の末にコントロールを失わないようなブレーキを備えた特別の空間を用意することが、最先端の科学や技術の競争の場において他を一歩リードするための一つの方法となるかもしれません。

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