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【Q3.拡大版立山黒部アルペンルート】 5 .室堂→大観峰→黒部平→黒部湖(立山トンネルトローリーバス・立山ロープウェイ・黒部ケーブルカー完全乗車)

 宿をチェックアウトし、室堂ターミナルへ歩いて向かう。明日は通常通り仕事だ。今日中に東京まで帰らなければならない。



 出発前に、博物館の受付に立ち寄る。昨日のガイドの方も居る。昨日別れてから、メスの雷鳥も無事発見・撮影出来たことを報告し、写真を見せる。今朝はオコジョらしき生物の姿を目撃したが、速過ぎて写せなかったと言うと、目撃地点を聞かれたので、地図を使って指し示した。
 次に乗るのは、大観峰行きのトローリーバスだ。出発まで少し時間がある。ホテル立山の裏側の、ダクトがある壁面にイワツバメが営巣している。少し撮影を試みる。常に高速で飛翔しているので、近影を捉えるのは容易ではない。彼らが飛翔しそうな空間全体をロングで撮り、フレーム枠内に飛び込んで来るのを待つ。国立駅の燕をふと思い出す。今年もそろそろ、彼らに会いに行きたいところだ。


 トローリーバスの改札を通る。バスは二台待っている。入構後は、係員の誘導に従い速やかに乗車を促されるので、その車体をゆっくりと撮影する時間は無い。かろうじて、トローリーバスの最もトローリーバスらしい特徴を見せる部分、車体上方の給電ポールの写真を撮る。給電ポールは、電車におけるパンタグラフに該当する設備で、このポールを通して供給される電力で、トローリーバスは走行する。外見はバスだが、法規上は鉄道扱いで、よってこの室堂駅は、ロープウェイ駅を除けば、日本で最も高い所にある鉄道駅とされる。



 九時一五分、室堂駅発。現在の日本国内で、トローリーバスが現役で走っているのは、唯一この路線だけだという。内燃機関ではなくモーターで動いているので、車内で聞こえる走行音もモーターのそれだ。

 このトローリーバスは、全区間においてトンネル内を走行する。立山連峰の脇腹を一気に貫通し、反対側に至る。車内は満員で、撮影は難しい。
 この、室堂―大観峰間の長いトンネル内に、以前は雷殿という途中駅が存在していたという。登山者のために設けられた駅らしいが、現在は使われていない。車窓からその痕跡を探してみたが、見つけられなかった。
 途中、反対方向に向かうトローリーバスとすれ違いを行う。

 九時二五分、大観峰駅着。次に乗るのは、黒部平駅まで下る立山ロープウェイだが、次便には乗らない。駅構内を探索し、スタンプを押す。広告物で見た、雪のドームやトンネルを見て回る。他の観光客も、盛んに撮影を行っている。



 展望台に出る。黒部平、そしてその先の黒部ダムを眼下に望む。峡谷の遥か底に、ダム湖がエメラルドグリーンの湖水を湛えている。


 黒部平駅から登って来るロープウェイのゴンドラと、ここ大観峰から下っていくゴンドラが、中間地点ですれ違う。雄大で劇的な瞬間だ。これを見るためには、必ず一便は遅らせなければならない。展望台には、撮影に勤しむ人間が、私以外にも何人もいる。人間が考えることは皆大体同じのようだ。
 下から登ってきたロープウェイが駅に到着するが、この便にもまだ乗らない。 
 崖側の景観もまた大迫力で素晴らしい。巍巍たる絶壁。周囲には夥しい数のイワツバメが我が物顔で飛んでいる。この断崖絶壁は、彼らが最も得意とする地形で、言わばツバメ達の楽園のような場所なのだろう。

 
列岳の表裏を知らず岩燕
黒部の五月に尾を翻す
 

 結局二便遅らせ、大観峰駅を出発したのは一〇時一〇分であった。
 ロープウェイ大観峰駅には、標高2316メートルとの表示がある。


 飛行機が余り得意ではない自分にとっても、ロープウェイは楽しい乗り物だ。ゴンドラの至近距離を、イワツバメ達が気まぐれに掠めて飛ぶ。人間が籠の中に居て、鳥達は外側から、その姿を眺めている。
 それでもイワツバメ達に、物理的な距離も、心理的な距離も少し近づけたような気がする。 

鋼索に吊られた籠の内側で燕の心に暫し近づく
 
 下るに連れて、少しずつ黒部湖湖面のエメラルドグリーンが近づいてくる。

 一〇時一五分、黒部平駅着。
 ここには、レストランや土産物屋がある。蕎麦屋があるが、まだそこまで空腹ではない。展望台と、屋外庭園が併設されている。どの空間も、外国からの団体客で溢れかえって騒がしい。中国系、韓国系、それ以外のアジアの人々。ここでもスタンプを押す。



 展望台に登り、今度は下から見上げる角度でロープウェイを撮影する。これもやはり、素晴らしい構図だ。つい一時間ぐらい前まで、この巨大な山塊の反対側に自分は居たのだと思うと、不思議な気がしてくる。風が強い。

 一一時一〇分、黒部平駅発。黒部ケーブルカーにて、黒部湖駅まで下る。アルペンルート二回目のケーブルカーだ。全線がトンネル内のケーブルカーは、日本ではここだけとのことだ。車内はやはり満員で、撮影可能なものは限られていた。


 一一時二五分、黒部湖駅着。ケーブルカー特有の、階段状のホームに停車する。下車した乗客の一部は、ホーム上からその車体を撮影しようと試みる。ホームの階段を降りてから撮影を行うように、駅員がアナウンスをしている。 

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