既視感の冬
カタールワールドカップ予選リーグ第一試合にて、日本代表は格上とされたドイツを破り、日本国中の観戦者を歓喜させた。今回のワールドカップにおいて、アベマは特設チャンネルを準備し、全試合中継を行っていたが、開業以来最高の接続者数を記録したことを、創業社長の藤田晋がツイッター上で報告した。本田圭佑の率直な解説も面白がられ話題となった。
アベマの親会社であるサイバーエージェントの株価は、この試合結果を受け急騰した。店内でスポーツ観戦を行うイングリッシュパブのチェーン店、HUBの株価も、ワールドカップ関連銘柄として同様に上昇した。HUBが上場企業であることを、自分は今回始めて知った。
予選リーグ第二試合、日本はコスタリカに破れた。サイバーやHUBの株価も、敗北により一時下落した。第三戦の相手、スペインはヨーロッパ屈指のサッカー強国であり、実力は明らかに日本より格上であるとされていた。決勝進出は微妙な情勢であった。
奇跡は再び起きた。日本はスペインに勝利し、決勝トーナメントに進出した。対クロアチア戦ではPKに破れ、準決勝進出はならなかったが、欧州のサッカー強国を相手に下馬評を覆す大健闘を見せた代表選手達は、喝采と賞賛に迎えられて帰国した。
アベマの視聴者数は記録更新を続けたが、特にサーバートラブル等は発生しなかった。
日本代表の試合時間と、アベマの主要コンテンツである麻雀対局番組「Mリーグ」の放映時間が重なることは一度もなかった。日本代表の試合は、丁度上手い具合に、Mリーグの対局が無い水曜や日曜ばかりに行われていた。アベマの出資企業である、テレ朝やサイバーの政治力によるものなのか、麻雀プロに互して自らも牌を握る雀士である藤田社長の強運によるものなのかは分からない。
大会期間中、サイバーエージェントの株価は、日本代表の試合結果によって乱高下したが、八月末の大暴落以前の水準を回復することは残念ながら無かった。十二月末の配当日を経て、年始には再び下がり始めてしまった。
十二月十六日に、サイゼリアのランチメニューの減少を確認した。
年末のアベマでは、クリスマスに合わせてガンダム0080を放送していた。昨年の年末のことは覚えていないが、一昨年の年末は、全く同じように、ガンダム0080を放映し、自分も全く同じようにリピートしていた。既視感を感じた。
この作品自体が四半世紀以上前のものであり、レンタルビデオ屋で借りて見た十代の時から、今までに何十回となく見ているのだから、既視感を覚えるのは当然のことであった。そもそも「既視感」という言葉を用いることが、不適切であり、日本語として正しくなかった。時の経過に耐え、いつの時代に何度見直しても色褪せることのない名作と評するべきであった。
既視感を感じるのは、作品自体ではなく、年末の時期に、それをぼんやりとそれを見ている自分自身のあり方に対してであった。二年前と全く変わらなかった。アベマの番組を視聴中に画面右側に流れる、コメント欄の内容もまた、二年前と全く同じではないかと思えてしまった。
この年末には、コロナウイルスによる一日の死者が、四百人を超えたと伝えられた。感染拡大の波、いわゆる第八波が到来していたが、行動制限を呼びかける声は少なく、ほとんど誰も自粛しなかった。何度も同じようなことを繰り返した結果、吾々の社会は、ウイルスの存在に馴れ、それを話題にすることに倦みつつあった。
二〇二三年になった。正月明けの一月七日と八日には、JR渋谷駅の巨大工事が行われ、その間山手線外回り電車が運休となった。一昨年の秋にも、同様の大工事が行われ、同様の交通規制が行われたた。つまり、既に見たことがあるイベントであった。歴史は韻を踏みつつ進むという表現が、このような場合において適切なものかどうかは分からなかった。
詩的散文・物語性の無い散文を創作・公開しています。何か心に残るものがありましたら、サポート頂けると嬉しいです。