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【Q4.直行しない水戸直行業務】2.水郡線完全乗車

 竜神峡吊り橋を渡って戻る。橋の床の一部が強化ガラスとなっていて、谷底を直接のぞき込むことが出来る。高層建築物等に良くある趣向だ。ガラスの上に直接スマホを置いて撮影していると、壮年の夫婦が話しかけてくる。旦那さんの方は、ナイスアイデアだとやたらに褒めてくれる。奥さんの方は、特に高い所が苦手とのことだった。

 記念スタンプを押し、土産物屋を覗く。大田区在住の文学仲間、松岡宮さんへの土産を買う。常陸太田は太い太田だが、大田区は大きい大田だ。北茨城の名産は、蕎麦であるとのことだ。

 二階のレストランは一四時で閉店してしまった。バンジージャンプに挑戦する者は、まだ居るようだ。七月なのにヒグラシが鳴いている。
 ここから、更に北の方向へ抜けるバスは、今日はもう無い。自家用車やバイクの人間は、どこに行くのも自由だが、自分はそうではない。常陸太田駅まで引き返す、一五時一〇分のバスを待つ。それ以外の選択肢は存在しない。


  駅まで戻る。常陸太田駅に駅スタンプはないのか? 観光案内所の係員に尋ねる。無いとのことだった。
 一六時〇八分、常陸太田駅発。午前中に来た経路をそのまま引き返す。良い天気だ。往路は車窓を撮影したので、復路は前面展望を撮ろうと思ったが、何故かこの列車に限って、運転席には三人も乗員が居る。視界が塞がれてしまい、正面動画は何も映せない。
 アクションカメラの、バッテリー部分の蓋が無くなっていることに気がつく。何時無くなったのだろう? 最も疑わしいのは、帰りのバスの車内だ。撮影自体は継続できるが、何かの衝撃でバッテリーパックがずり落ちてしまうと、電源が即座に切れてしまう。気を使わざるをえない。
 一六時二二分、上菅谷駅着。次に出る郡山方面の列車は、一六時三三分発の常陸大子行きなのだが、途中の踏切トラブルのために遅れているとアナウンスがある。駅スタンプを押し、駅舎外に出て写真を撮る。駅周辺には、これと言ったものは特に無いようだ。


 一六時三九分、上菅谷駅発。常陸大子行き。大子と書いて「だいこ」と読む。
 ここからは再び、水郡線の本線部分を走る。北茨城の田園地帯をしばらく進む。近景には青田、遠景には青山、上空は青天。近景と遠景の間を送電塔が繋ぐ。時折自動車道と並走する。日本の田舎とは、概ねこのような風景であるなと思う。
 中舟生駅辺りから、段々と山深くなってくる。
 水郡線には「久慈川清流ライン」なる愛称がつけられているが、その名に相応しく何度も久慈川と交差し、その都度橋を渡る。進行方向の左右どちら側の車窓にも、交互に水辺の通景が現れ、見所がある。


 天竜川沿いを走るJR飯田線に乗った時のことを思い出した。その見所のほとんどが路線の西側に集中しており、撮影目当ての乗客のほとんどがそちら側で陣取りをしていた。それに比べれば、ある意味公平だ。
 進行方向右手の車窓に、川面が広く拓ける。腰まで川につかり、竿を振る釣り人が居る。絵になる。
 一七時四〇分、常陸大子着。今乗っている列車の終点だ。スタンプを押す。駅前はそれなりに栄えていて飲食店もあるが、今の時間は営業を終了している。


 一七時五三分、常陸大子発。郡山行き。この列車で福島県まで進む。
 一八時五四分、磐城石川着。この駅で列車交換を行う予定の対向列車が、少し遅れているという。一九時〇四分、磐城石川発。盆栽のような植込みスペースがホーム上にあるのが、発車時に視界に入る。印象に残る。


 さすがに少しずつ暗くなってくる。肉眼で見るのが難しい景色でも、スマホのフレームを通して見れば、しばらくの間は確認出来るが、それにも限界がある。
 終点、郡山の一つ手前の駅、安積永盛にて東北本線と合流。この駅は水郡線の名目上の終点だ。郡山に近づくにつれて、右手の車窓からは、東北新幹線の高架が接近してくる。
 一九時五一分、郡山着。初めて降りる駅だ。各種商業施設が入った、予想以上に立派な駅ビルを備えているが、ほとんどの店が二〇時で閉店してしまうようだ。
 郡山は、県庁所在地である福島を抜いて、県内で最も栄えている都市であるという。週末なので、駅周辺の商業エリアは賑わっている。何だか、ヤカラ系の外見をした男性が多いように感じたが、気のせいか? 


 ラーメン屋でラーメンを食べた後に、駅前のヨドバシカメラに向かう。途中、警察官の集団とすれ違う。警官の姿も、何だか多いように感じる。


 ヨドバシでは、マイクロSDカードを買う。初見の家電量販店では有りがちなことだが、どこに売っているのか分からずに、少し迷う。この店は夜一〇時まで営業している。大都会だ。


 来る途中にネットから予約したビジネスホテルは、水商売の店が集まった繁華街のど真ん中にある。周辺の治安は、いかにも悪そうだ。フロントは、雑居ビルの三階。余り身だしなみがキチンとしていない係員から、部屋の鍵を受け取る。
 ベッドやユニットバスはごく普通であったが、とにかく内装がボロイ。そして壁がとにかく薄い。屋外からは奇声が、廊下からは他の客の喋り声が、隣室からはポットの湯を沸かす音が聴こえてくる。眠れない。
 

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