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【Q4.直行しない水戸直行業務】3.磐越東線完全乗車

 騒音とコーヒーの飲みすぎで眠れない。時刻表とスマホで明日の予定を何となく調べる。明日は郡山からいわきまでを結ぶローカル線、磐越東線に乗るつもりだ。福島の内陸都市と沿岸都市を繋ぐ地方交通線である。その沿線で、途中下車して立ち寄れるような名所や旧跡、レジャースポットが、どこかに無いだろうか?
 調べると、洞窟やダムなどの面白そうなスポットが幾つか見つかる。だがいずれも、公共交通機関でのアクセスが極めて困難だ。最寄駅からバスが通じておらず、レンタサイクルなども無い。行くとしたらタクシーを使用せざるを得ないが、私はそこまでの金持ちではない。残念である。

 結局朝までほとんど一睡も出来ない。苛立たしく、腹立たしい。部屋を飛び出し、鍵をフロントの返却ボックスに投げ入れ、チェックアウトする。早朝の郡山の繁華街を速足で駅まで向かう。


 道中、オールナイトで遊んでいた若者達の集団や、駅前のベンチで仰向けになっている酔っ払いなどを目撃する。いかにも夏の休日の夜明けの都会といった感じがする。

 スタンプを押す。


 エキナカの飲食店はまだやっていないので、松屋かマックの二択となる。松屋の朝定にする。豚汁定食だ。


 ムシャクシャするので、ニューデイズと駅周囲のコンビニを一周して、一番良い酒を買ってやった。長距離バスのバスロータリー横のセブンで見つけた、メーカーズマークレッドトップだ!
 18きっぷに今日の日付のスタンプを押してもらい、入構。磐越東線のホームへ向かう。二両編成のディーゼルカー。キハ110系。長野や山梨を走る、小海線で見かけた車両だ。前側の車輛の、進行方向右手のボックスシートに座れる。


 六時五二分、郡山発。右側の車窓には、貨物列車に工業用のタンク群。郡山は巨大貨物駅でもある。


 窓辺にメーカーズマークとアクションカメラをセットし、早速始める。朝酒、いわゆる卯飲だ。(昔の時刻表記で朝の時間帯、卯の刻から酒を飲むことから、朝酒の事を卯飲と言う)飲まなきゃやってらんねえよ。


 次の舞木駅から、いきなり結構山深いロケーションだ。「舞木」と書いて「もうぎ」と読む。
 車窓には緑。列車は頻繁に汽笛を鳴らすが、野生動物対策であろうか?
 オールナイトで飲んでいたと思われる、学生っぽい乗客が、途中の無人駅で降りていく。ディーゼル音に揺られ、普段より良い酒を舐めながら、穏やかに連なる山並みと青田が織りなす夏の福島の平和な車窓を見ているうちに、次第に不機嫌を忘れていく。


 七時四五分、小野新町駅着。「おのしんまち」ではない。「おのにいまち」だ。今乗っている列車の終点である。有人駅だ。駅員に18きっぷを見せ、改札外へ出る。


 駅舎内はなかなか華やかだ。色々なモノが飾ってある。近隣の小学生の作文。ジオラマ。駅スタンプは何と三種類もある。全て押す。


 この土地は、小野小町の生誕の地であるという。小町の父親の平安貴族、小野篁がこの地に赴任中に出来た娘が、小町であるとのことだ。駅から少し歩いた所に碑文がある。見に行く。


 次に乗る列車まで、まだまだ時間がある。周辺を探索する。商業施設らしき店舗もあるが、まだ営業時間前だ。旅館、商人宿らしき建物は、現在営業しているかどうか分からない。少し離れた所を、川が流れている。川辺に降りると、チョウトンボがやたらに沢山飛んでいる。


 バスロータリーに、バスが入って来る。誰も乗っていない。表示を「回送」に切り替えて、慌ただしく去っていく。
 バス停の表示を見る。この駅と、水郡線の磐城石川駅を結ぶ路線バスが平日にはあるようだが、休日は走ってない。


 付近には温泉があるらしい。付近とは言っても、徒歩で行ける距離では無いようだ。


 次乗る列車を逃すと、大変なことになる。早目に改札内に入り、ホーム上の待合室にて待機する。待合室は特に立派なものではないが、清掃は行き届いているように感じられた。


 八時五二分、小野新町駅発。ここから先、いわき駅までの区間が、磐越東線の車窓の見所と言われているようだ。今度は進行方向左側に座り、アクションカメラをセットする。確かに、車窓は次第に深山に分け入り、渓谷美を見せてくれるが、ここで睡魔が襲ってくる。睡眠不足の上、酒も入っている。睡魔と戦い、時に敗北しつつ、その景観を眺める。
 この沿線には、詩人・草野心平の記念館があるが、適切な交通手段が何も見つからなかったため、今回は諦める。

 

 いわき駅入線時には、特急ひたちの車輛が迎えてくれる。
 

 
 九時三六分、いわき駅着。ここまで乗ってきた車輛を撮影し、階段を登る。極めて近代的、都会的な空間が、その駅構内には広がっている。いわき市は、福島県の沿岸部では最大の都市であるという。

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