5.イチゴ

元々、事業の練り直し自体は昨年5月から進めていた。当時は宮田、良田、私の3人で事業を行っていたため、3人分の収入を確保するためには、2反のハウス面積では足りず、早期に規模を拡大する必要があったためだ。

そこで、目をつけたのがイチゴである。イチゴは非常に寒さに強い植物で、最低気温が5℃でも栽培出来ると言われており、バイオマスエネルギーと相性がいい品目の一つである。養液での栽培実績も豊富にあり、トマトでの栽培経験も活かせる。

更に、イチゴは私が就農した古賀市の重点振興品目に指定されており、条件を満たせば福岡県と古賀方から最大で事業費の3分の2を補助してもらえるのである。逆にこれは私の調査不足だったのだが、古賀市ではトマトは補助対象外となっているため、その分の自己資金が必要となる。

農業のお金の事情として、通常の農業者の融資を引受けてくれる金融機関は、事実上、政策金融公庫と農協のどちらかしかない。さらに実績の浅い農業者がハウスを建設するといった何千万円の金額になると、政策金融公庫一択となる。民間の銀行にも色々と話を聞いたが、これが事実である。
もちろん、余程先進的な技術をもっていればベンチャーキャピタルからの出資という手もあるだろうが、普通の農業モデルではまず不可能だ。

融資を受ける手順は、①農業を行っている地域に就農計画書を提出し農業者として認定してもらい認定新規就農者となる②その就農計画に基づいた資金計画に対して農協や県の農業指導員からお墨付きをもらう③政策金融公庫が資金計画を審査し④融資実行、といった流れだ。

トマトとイチゴ栽培による収益計算を行った結果、自分たちがフルで作業すると仮定しても、3人が暮らしていくためには最低でも6反のハウスが必要であることが分かった。つまり、あと4反のハウスを準備しなければならなかった。
そこで、青年等就農資金と呼ばれる政策金融公庫による新規就農者向けの融資枠と、活力ある高収益型園芸産地育成事業という補助金をセットにして、規模拡大を計画した。融資枠は最大3600万円とあったので、それをフルに活用する計画書を市役所に持っていき、FromTomatoを法人として認定新規就農者にしてもらおうと考えたのだ。

ところが、ここで提示された条件に誤算が2つあった。

一つは、イチゴ栽培で補助金を活用するには、イチゴ農家等で少なくとも180日は栽培を学び、実際に作業をすることが条件だということ。

もう一つは、稀なケースを除いて一度の融資はおよそ1000万円が上限であるということ。認定新規就農者である5年の間で、段階的に融資を受けることができ、その総額が3600万円ということだった。

この条件により1000万円の融資で、なんとか事業継続を目指さねばならなくなり、次世代人材投資事業というもう一つの補助金の活用も必要となった。

次世代人材投資事業とは、認定新規就農者が最大年間150万円の補助を最長5年受けれる制度である。私自身は個人で認定新規就農者となっていたため、この補助金を活用していた。
1000万円の融資では規模拡大が制限されるので、宮田がこの補助金を活用することで、次の融資を受けれるまで何とか凌ごうと考えたのだ。

さらに、イチゴ農家であるイシダファームの元、3人合計で180日研修を積むことで、活力ある高収益型園芸産地育成事業を活用させて欲しいと提案した。

市や県からの回答はこうだった。

「補助金を受けるために動いていませんか?元々の計画がしっかりしてないから方針がぶれている、今後計画変更の少ない計画をたてて下さい。」

この回答に私は激しい怒りを感じた。

宮田も良田もバイオマスを農業に活用し、持続可能な社会を構築していくというミッションの元、身を粉にして一年間農業に取り組んできた、もちろん補助金無しで、だ。
にも関わらず、事業を継続していくために様々な可能性を模索している我々に対して補助金目当てのような言葉をあびせたのだ。

今なら市や県の真意は別だったかもしれないと思えるが、当時の私はこれで短い導火線に火がついた。

「我々はバイオマスエネルギーの農業利用を世の中に普及させるために動いており、その大前提はぶれていない。そして、その事業の中で活用出来そうな補助金について相談してるだけだ!」

と回答。そんなやりとりをしている間に台風で木造ハウスが倒壊してしまい、計画を大幅に変更せざるを得ず、トマトとイチゴを組合せた事業も断念した。しかし、イチゴは様々な点で魅力的だった。

そんなこともあって、改めてバイオマスとの相性という点で、イチゴ栽培メインに変えていくのはどうかという考えが頭に浮かんだ。

実際にイシダファームに設置させてもらった実験設備で養液による栽培試験の結果、改善点は多いものの栽培自体は出来そうだった。あまおうやとちおとめなど、複数の品種を試したが「よつぼし」という種から育てる品種は、トマト栽培と栽培工程が似ており、味も良かったためより魅力的に感じていた

やはりイチゴかなぁ、そんなことを考えていた時にネットでトマトの生態に関する新たな情報を見つけたのである。

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