ヴェネツィアと鯛焼き

金曜日、昼休み。
運命的に同じオフィスビルの別フロアで働いている、女子校時代の友人とランチにいった。

彼女とは、さほどクラスには馴染めない者同士、中学3年生のときに仲良くなった。

中高時代、一緒に銀杏BOYZを観にラッシュボールに行ったり、美術部に入って隣に並んで絵を描いてコンクールに出展したり、アメリカの西海岸にホームステイしたり、天王寺ミオのSWIMMERでときめく雑貨を買ったり、わたしたちなりの文化的な青春をともに過ごした仲だ。

余談だが、他人の記憶の中にいる「わたし」のなかで、私がいちばん気に入っている1位の自分は、今のところ彼女が教えてくれたわたしだ。

「高校のとき、あんたにaikoのアルバム借りたら、ケンドーコバヤシのDVD入ってたで」

チグハグに保管する“ずさん”さに強烈な心当たりはありつつ、そういうことをわざとやりそうな耐えがたいキショさにも自覚があり、いずれにしてもわたしだなと、非常に気に入っている。


余談おわり!


さて、そんな友人の近況を聞くと、「5月に新婚旅行でイタリアに行く」と教えてくれた。

わたしも新婚旅行はイタリアに行ったので、「どの都市に行くのか」や「どの美術館に行くのか」などの話題で、しばし盛り上がった。
ローマ、フィレンツェ、ヴェネツィア、ミラノ、同じ都市をめぐることが分かった。


ヴェネツィアの見どころについて話しているとき、ふと、すっかり忘れていた記憶を思い出した。

「そういえば、私がリアルト橋にのぼったとき、鯛焼きのかぶりもの被ってる女性いたわ」

リアルト橋は、水の都ヴェネツィアを代表する橋で、運河を見渡せる観光スポットだ。
美しすぎる、ひっかけ橋みたいなものである。

橋の欄干、いちばん見晴らしのよい特等席に並ぶ二人の女性。その片方が、鯛焼きだった。
橋の上から見たヴェネツィアの美しい夜景を思い出そうとすると、ノイズのように鯛焼きがチラつく。

記憶のなかの映像を自分で言語化しながら、同時に「リアルト橋」「鯛焼き」を含む一文が耳から脳に改めて入ってくると、なんかものすごく変なことを喋ってるなとは自覚した。

「鯛焼き?どういうこと?」

さほど驚きもせず、あっさり聞き返す友人。
aikoのアルバムにケンドーコバヤシのDVDを入れて寄越すような、たぬき女だと思われているので、まだ話半分に聞かれているのがわかる。

し、信じて・・・ここここれは本当なんだ・・・エビデンスを出さなければ・・・
写真があったはずとカメラロールを探した。


あっっった!!!!!!!
と見せたら、友だちが笑った写真がこれ。

泳げ鯛焼き人間


この鯛焼き状態の彼女は、彼女のなかで、いったい何位の「わたし」だろうか。

「ヴェネツィアで鯛焼きであった自分」は、かなり上位なのではと思うけど、あの日特別に鯛焼きになっていたのか、いつも通りの姿だったのかによって、ランクが変わるんだろうな。


すげえ強いカードだったらいいな。


ヴェネツィアと鯛焼きの話、おしまい!


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