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商業出版は需要が枯渇するまで掘ってしまうけど、同人誌出版は持続可能な収入源になる?

商業出版と同人誌出版を両方やってみたら、売れ方のパターンが違いました。
僕の当初の予想とかなり違っていました。
一般化できる法則かは不明ですが、ご参考までに、その体験談を書きます。

僕が商業出版したのは『人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている』という本で「錯覚資産本」と呼ばれてます。
同人誌出版したのは『最新研究からわかる 学習効率の高め方』という本で「学習効率本」と呼ばれてます。

ここで言う「同人誌出版」の定義は「出版社も編集者も通さず、自分で作って、自分で出版する」こと。
一般的な定義とは少し違うかもなので、ご注意されたし。

錯覚資産本は多くの方に読んでいただいて、台湾版も、オーディブル板も出していただき、ダイヤモンド・プレミアム(有料会員)というサブスクサービスでも提供していただいています。

ただし、錯覚資産本を多くの方に読んでいただけたのは、かなりの部分、出版社の力です。
優秀な担当編集者さんが優秀なイラストレーターさんと優秀なブックデザイナーさんを連れてきてチームが作られて、その編集者さんがあのタイトルを考えて、そのチームがあの表紙を考えて、優秀な宣伝部の人が大きな広告を作って山手線にドバーッと広告打って、大手新聞にも広告を出して、その出版社のコネで人気TV番組でもがっつり紹介され、優秀な営業の方が本屋さんと交渉してドバーッと平積みされたおかげなんです。

錯覚資産本は、中身は単なる認知バイアスの入門書です。「難しい本を読むのが苦手な人でも、10個の重要な認知バイアスを、1~3時間ぐらいでサクッと理解できちゃう本」なんです。オリジナルの工夫があるとすれば、「錯覚資産」という概念ツールを作ることで、重要な認知バイアスを誰でも簡単かつ直感的に理解できるようにした点ぐらいです。
ただそれだけの本をこれだけ売ってしまえるほど、彼らは優秀なわけです。

ところが、彼らは、優秀すぎるが故に、短期間に潜在需要を掘り尽くしてしまう、という面があるのではないでしょうか。
つまり、「潜在的に錯覚資産本のような本を必要としている人」にリーチし尽くしてしまう。

学習効率本の売れ方と比較すると、それがよく分かります。
守秘義務があるので細かいデータは出せませんが、学習効率本と錯覚資産本の売れ方のパターンの違いをデフォルメして図にすると、以下のようになります。

どちらの本も「初期に売上のピークが来て、それがだんだん減衰していき、やがて増えも減りもしない定常状態になる」という点では同じです。
違いはピークと定常状態の高さです。
錯覚資産本はピークが大きいですが、定常状態があまり太くないです。
一方、学習効率本はピークが小さいですが、定常状態が太いです。

原油で言うと、錯覚資産本は、採掘コストの低いところは掘り尽くしてしまった状態です。
なので、定常状態での原油の産出量が低くなります。

これに対して、学習効率本は、ほとんど宣伝コストをかけていないので、「潜在的に学習効率本のような本を必要としている人」にほとんどリーチしていないです。
つまり、まだまだ採掘コストの低い原油が大量に埋蔵されている状態なのです。
ほとんど宣伝コストをかけてないのに太い定常状態がずっと続いている大きな要因の一つが、これなのではないかと思っています。

また、もう一つの大きな要因は、学習効率本が電子書籍オンリーなのに対して、錯覚資産本は紙の本も出版されているということです。
紙の本だと、出版社の売上にならない形で読む人が非常に多くなります
東京都の図書館で錯覚資産本を軽く検索してみた感じでは、概ね半分くらいの図書館の蔵書になっているようです。
また、本屋で立ち読みしました、という方もけっこういます。
さらに、古本屋さんやフリマサイトなどでも流通しています。
とくにネットとスマホの普及で、ますますフリマやオークションサイトでの流通が増え、その傾向が強くなってきているのではないでしょうか。
このため、紙の本を出版すると、定常状態がやせ細るのです。
潜在需要の埋蔵量を減らしてしまうという意味では、紙の本は、一般に思われている以上に害が大きいのではないでしょうか。

ちなみに、最初はツイッターのアカウント名を「ふろむだ@学習効率本Amazon1位」としていて、それが原因で学習効率本が売れてるのかと思いました(発売当初、第1巻をKindleで無料公開したところAmazonで総合1位(無料)となったので、こう書いていた)。そこで、試しにアカウント名を「ふろむだ」に戻したのですが、売上は全く変わりませんでした。
また、「僕がときたまツイートするから学習効率本が売れるのかな?」と思って1ヶ月ぐらいツイートしなかったことがあるんですが、それとも関係なく学習効率本は売れ続けてました。
さらに、「第1巻をKindleで無料公開しているせいかな?」と思って第1巻を有料にしてみたんですが、それとも関係なく売れ続けています。そもそも、主な流入ルートはAmazonではないようなんですね。
「僕のフォロワーさんが買ってくれてるのかな?」とも思いましたが、本の誤記などをTwitterのDMで教えてくださった方々のアカウントを見てみると僕のアカウントをフォローしていない方のケースが多く、どうも、買って下さる人は、僕のフォロワーさんばかりというわけでもないようなんです。
彼らの多くは、いきなり僕のBOOTHに来て、いきなり買っていくように見えるのです。
彼らはいったいどこからやってきたのだろう?と思っていたのですが、TwitterのDMや、BOOTHのメッセージや、メールで読者さんとやり取りしていて、「予備校教師をやっている知人に勧めておきました」「甥が受験生なので勧めておきました」「英語学習をしている同僚に…」「資格試験の勉強を始めた妻に…」のように、リアルの知り合いに紹介したと言う人が多いことに気が付きました。
なので、今は「主な流入ルートはリアルの人間関係の口コミの可能性が高そうだな」と思っています。ZoomなのかLineなのかSlackなのか対面なのかはわかりませんが。

そもそも「口コミ情報の価値」は「一般に知られていない情報」の方が高くなります。「全然宣伝されてなくて、見たことも聞いたこともないけど、すごくいい情報だ!」という情報を発見すると、人に言いたくなるものです。出版社が大々的に宣伝すると、「いや、そんな情報知ってるよ」となり、口コミ情報の価値が減ってしまい、口コミのインパクトが薄れてしまいます。
つまり「知る人ぞ知る情報」だからこそ、口コミ効果が大きくなるのではないかと思うのです。

もちろん、これは程度問題で、全く告知しないとリアルの口コミの最初の起点が発生しないので、固定ツイートなどに情報は載せていますし、学習効率本に言及するツイートをRTさせていただいたりすることもありますが、「山手線や新聞に広告を出す」みたいなことは全然やってません。

勝間和代さんは昔、「本は書く努力の10倍売る努力をしなければならない」と言ってましたが、それは当時の常識であり、今はトレンドが少し変わってきて、必ずしもそれが真ではないケースが増えてきているのではないでしょうか。

もちろん代替品のある本の場合、先に代替品を買われたら、買ってもらえなくなるので、急いで売る必要があります。だから大きな予算をかけて宣伝する必要があります。
しかし、学習効率本のようなニッチな本は、ニッチ過ぎて同じような本を書こうとする人がいません。市場が小さいのに、書くのに膨大な労力がかかります。そこまで多大な労力を費やしてそんな小さなパイを奪い合うのは割に合わないです。したがって代替品が出ません。代替品のない本の場合、その需要を代替品に先に食われる心配はありません。だから急いで売る必要はないのです。
代替品のない本の場合、「宣伝」というのは単なる「需要の先食い」でしかないです。
代替品がないということは、「それを本当に必要としている人」は見つけ次第買う確率が高いということです。
だから、無理に宣伝しなくても待っていればいずれ彼らに見つかり、見つかればだいたい買っていただけます。なので気長に待っていればいいんです。
このスタンスは、電子書籍時代と親和性の高い本の売り方のパターンの一つなのではないかという気がしています。

もちろん、一口に商業出版と言ってもいろんなパターンがありますし、同人誌出版にもいろいろなパターンがあるので、全てに当てはまるような一般法則ではないですが、こういう事例もある、ということで、ご参考までに。

この記事の作者(ふろむだ)のツイッターはこちら


※この記事は、文章力クラブのみなさんにレビューしていただき、ご指摘・改良案・アイデア等を取り込んで書かれたものです。

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