コマーシャルと現代社会 第3回-〇〇〇で見る日本経済史(後編)

 日本はオイルショックによって戦後初のマイナス成長を記録したものの、すぐにかつてほどではないにしろ景気を回復させ安定して成長していました。


 一方、危機的状況に置かれていた国も。アメリカです。1980年代、米レーガン大統領は経済政策を打ち出して米国内の消費を加速させ貿易赤字(米国が他国に輸出して売り上げた額より他国から輸入して金を払った額の方が高かった状態)を生み出したほか、「強いアメリカ」を目指して国防費を拡大させ経常赤字も生み出してしまいました(「双子の赤字」問題)。しかも「強いアメリカ」の為にドル高状態(ドルの価値が意図的に高く設定されているため、アメリカの製品は他国に売り出すとなるとその国の現地通貨でエグイ高値で売ることになり、相手国では全然売れない)。

 

これを何とかする為に1985年、プラザ合意がされ、ドル安の方向に舵を切ることになりました。これでアメリカ経済は立ち直るけど今度は日本経済が危ない…!不安視した日本政府は円高不況を阻止する為に、政策金利を引き下げることでお金を借りやすい世の中を作り上げたのです。その他にも日本国内で公共事業を拡大して不景気対策を講じたり、原油の価格が下がるラッキーもあって今度はお金が有り余りました。バブル経済の始まりです。


 さぁ、お金があってあってしょうがありません。税金対策でそれまで全くCMを打ってこなかった企業も訳わからんCMを打って打って打ちまくりました。次に挙げるはある金属会社のCM。大根をバイオリンのように持って演奏する素振りをし、ナレーション「やわらかアタマしてます」。…私はかたい頭なのでこのCMはよく分かりませんでした。



 とにかく景気の良かったこの時代。栄養剤のCMは労働者を元気づけるどころか、これを飲んでもっと働こう!お金を貰おう!と相当に煽っていきました。ある栄養ドリンクでは有名ハリウッドスターをCMに起用し、ビジネスの難局に立たされたハリウッドスターが正義のヒーロー(?)に変身し、ことを強引に解決させるというトンデモシリーズを展開。さらに他のドリンクはCMソングで「24時間戦えますか?」とかなり強気なことを言い出しました。



 しかし、そんな時代も長くは続きませんでした。バブルが崩壊し、日本国民は不況のさらにどん底へと誘われていきました。1990年代中頃から始まる不景気は「失われた10年」(人によっては「~20年」とも)と言われてしまう程のものでした。


 さらに人々を不安にさせたのは「ノストラダムスの大予言」。そこには「1999年7の月に人類は滅亡する」と解釈できる予言がありました。オカルト的要素は確かに強い。信じられない。でも本当かもしれない。予言にあった7の月はもう目の前…90年代の終盤は停滞する経済と終末の予感に包まれていました。


 そんな時、音楽業界で一大事が起きました。「インスト曲(歌詞の無い曲)がオリコン一位を獲得」栄養剤のCMソングでした。この曲はピアノのみで演奏され、癒しの音楽とされました。




 栄養剤はまたしてもかつての労働賛歌的な曲・CM演出から疲弊する世の中への癒し演出へと舵を切ったのです。高度経済成長期の頃のアプローチの流れを完璧に踏襲しています。しかもこのインストCMはあの「24時間戦えますか?」と言っていた栄養剤ブランドから生み出されたCMです。ちなみに後年このコピーは復活するのですが「3・4時間働けますか?」とリアルな数字になっているのが笑えます。



 栄養剤CMのアプローチから今の経済のヤバさや勢いを知る。そんな楽しみ方も面白いです。


コマーシャルと現代社会 第4回「ヘソから感じた消費者主義」へつづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?