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ある新宗教の信者さんについて

「俺は〇〇に入って人生が変わったんだよ」
月並みな、ネットミームにもなるくらい使い古された折伏の言葉。
これをリアルで聞いたのは私がまだフリーで工事の手配をしていた頃の現場への送り迎えの車中だった。

当時付き合いのあった解体屋さんの紹介で来てくれることになった左官屋さん。
彼は車を持っておらず、電車での通勤が難しい現場だったので彼の工期の一週間私が家から現場までの送り迎えをすることになった。

今の若い職人さんならスマホでゲームなりなんなりをするので会話をすることも少ないが、彼のような高齢の職人さんはスマホは持ってるがラインと電話くらいしか使わず、現場の段取りの話が終わってしまうと当たり障りのない世間話になる。
経験上、長く付き合うのでもない限りは過去の話を聞かない方が良い。
大抵は良いことがないからだ。

ふとした時に「休みの日は何をしてるんですか?」と聞いた際に「俺は〇〇の信者でね。休日は女房と集まりに行くんだ。」と言われて(やっちまった)と身構えた。
大抵は「パチンコ(ギャンブル)だよ」→(どれくらい勝ったことあります?)
「(趣味)やるなあ」→(長いことお好きなんですか?)
なんて会話を広げて行けば現場を出て家に着くくらいの時間はどうにかなる。

折伏が始まるとなるとこれは少し面倒だな‥と思いつつ身の上話を聞いた。
だが、単なる身の上話を超えて、大げさにいえば戦後の日本で大きな存在感を持った〇〇会の強さの根源に触れられた気がした。

彼は返還前の沖縄で産まれた。
両親は揃っていたが、両親ともに忙しく、大きくなってからは定職につかずフラフラと暮らしていたらしい。

おそらく不良のようなことをしてたのだと思う。
「戦果あぎゃー」みたいなものですか?と聞くと「それは俺達の親父みたいなもっと年上の人たちの話。俺は本土の不良と変わらないよ。」
まともに働かず、遊びばかりしていた彼を見ていた親御さんは沖縄からの移住者が多かった横浜に親戚を頼って上京させた。

横浜に来たものの最初に働いた職場は沖縄とは違いすぎる文化に馴染めず退職。
その後、沖縄に居る時と同じように酒を飲んだり、仲間にたかったりするうちに居場所が無くなってしまった。

横浜の人間関係に嫌気がさして逃げるように川崎に移り、現場仕事を転々とした。
現場仕事が終わったら酒を飲んで喧嘩をする毎日。
いずれヤクザになるかつまらない喧嘩で死ぬかくらいしかない荒んだ日々を送る中、当時住んでたアパートの横の家で大勢集まってお題目を唱えていたらしい。

「おう!精が出るな!」と声をかけて少し会話をする。

そこからが大変だったらしい。
毎日毎日、折伏折伏の連続で一度集会に来てくれっ!って嫌だめんどくせえって言っても帰らねえんだ。
「昔は嫌がる人が捕まってる柱から引っ剥がして折伏するくらい過激だったらしいですね。」「おおよく知ってるな。俺は身体がこう(でかい)からそれはなかったな。」

そんで根負けして、「わかった!1回行こう。でもタダで言っても仕方ねえから飯を食わしてくれって言ったら分かったって言ってな。」

「まあ行ったけどお題目唱えて、涙流してる婆さん見たりしてつまんないと思ったな。学がねえから分からなかったしな。それで約束の飯食ってる時におばちゃんの信者の人が来てな。今日はどうして来たんだ?って言うからこれこれこうで約束通り飯を食ってるって話をして、俺が今何してるのか?って聞くから沖縄から来て工場やめて鶴見から出て現場の仕事してるって言ったら涙を流して、巡り合せが悪かったのね。っていってくれたんだよ。」

不良だったからか、時代か自分の話をきちんと聞いて涙を流してくれる人は居なかったらしい。
お題目を唱えるのは気持ち悪いけど、飯を食べさせてくれて話を聞いてくれるならまた行こうかなと。
「2回、3回と話を聞いてもらったんだ。」
沖縄、鶴見、川崎と転々として辛かったことを話して聞いてもらった日々。

「変わったんだよ。俺はそこで。人の話を聞いてやるってことがわかったんだ。話を聞いてもらって初めて分かったんだ。それまでは嫌なこと言われたら殴ったんだけど、その前になんでそういうことを言うのか、人の話を聞く、それで話すってことが分かったんだ。」

そこからの彼の話は正直月並みであまり印象には残ってない。
(先生の偉大さとか、病気がなおったとかね。)

最近読んだ小川寛大さんの創価学会を評した本に「日本の貧困層を世捨て人にすることなく包摂し、日本の赤化を防いだ」という言葉があった。

大学時代に宗教関係に少し興味があって広報の方や政治部の方に話を伺ったり、解説書を読むことはあったがその言葉を実感することは無かった。

毀誉褒貶が激しい〇〇会だが、戦後日本で大きな存在感を持ったのはそれを必要とする人が居て、その中に地の塩のような人が居たからだろう。

※とても書けないようなエピソードがたくさんあったので気になる方は酒チャンスにて!

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