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土木学会誌 第109巻 第1号 特集「みんなで育てようパブリックなオープンスペース」

土木学会誌 第109巻 第1号
特集「みんなで育てようパブリックなオープンスペース」

2024年1月号の主査は,DD編集メンバーでもある愛工大の川口 暢子先生,そして編集メンバーの九大羽野暁先生も招聘して,レイコReiko Yamamotoさん,小川 慎太郎おがしんさんと,土木学会幹事長杉木直

1月号表紙は,ナゴヤSUP推進協議会の皆さん

新年1月号は,やはりその年の土木学会誌の顔とも言える一冊です.冒頭には,編集長である日大岩城 一郎先生の「良いものをつくろう」とする気持ち.2024年は元旦から能登半島地震,2日には羽田空港での飛行機事故,とたいへんな一年の幕開けとなりましたが,奇しくも岩城先生の巻頭言は,私たちに平時からの備え,大切にしなければならないことを思い起こさせて下さっています.

岩城先生「良いものをつくろう」とする気持ち

川口さんは開口一番,「自分の専門に近いフィールドから出発し,集まったメンバーのユニークさに助けられ,ワクワク感が止まらなかった.いい意味で予想外の着地点」と本当に楽しく編集できたことが伝わってくる感想で,そのチーム感は編集後記を林匡宏さんがグラフィックレコーディングした一枚の絵からも伝わってきます.

林さんのグラレコ

本特集のクライマックスとも言える鼎談:オープンスペースで「コトバ」を探せ,にも登壇された羽野先生は,「最初は0ベースだったが,オープンスペースをバッファーとして考える,つまり「余地」や「余白」として,「何かと何かをつなぐオープンスペース」という考え方が新たな地平を開いた,今後大切な考え方となるはず」と自信を持ってコメントされていました.お二人とも声を揃えて,本特集を陰日向で支えたのは,もちろん山田 菊子さん!とおっしゃっていました.

鼎談:オープンスペースで「コトバ」を探せ

パブリックオープンスペースに対して,おがしんさんから「みんなの」という言い回しによって,逆に阻害されたり「特定の」使い方を押し付けたり,「やっかいな」ことも起こるよねー,という鋭い突っ込みもあり,羽野先生は当事者研究の熊谷先生の言葉を借りて「表現されてこなかった」オープンスペースの役割を可視化すること,一見無駄や余白が新しいコトバとなり,気づきが生まれる.今あるコトバに光を当てることも大切かも,と.

レイコさんからも,「時間をかけて,育てていく場所」として,パブリックオープンスペースに対して様々な視点から記事があり読み応えがあった!と.「視点①暮らしと自然」では九大のHironori Hayashi林先生が上西郷川を,「視点②日常と非日常では」熊大の星野 裕司先生が白川の水辺を題材に寄稿されています.「視点③自由と治安」では,藤さんのスケボーや石川さんのブレイキンの記事,「視点④自分と他人」では分身ロボットで有名な吉藤オリィさんの寄稿が興味を惹きます.「何でもあり」の編集だったと羽野さんと川口さんが振り返り,「のり」が大切という言葉に,幹事長の杉木先生も満足そうでした.

星野先生「日常と非日常の間」

川口さんは,改めて冒頭の真田 純子先生の記事の大切さに言及し,北村徳太郎が考案した「東京保健道路計画」の重要性と「一人当たり面積」は方便であり,オープンスペースの多様性を守ることの現代的な意味について,一人一人が考えることが大切であることを指摘されました.今回の寄稿で多くの方が,公民連携について言及され,オープンスペースの使われ方,利用像が変化してきていることを指摘しています.その中には,特定の活動を排除するような動きも見られます.「みんなでつくる」ことはハードでもソフトでも,パブリックオープンスペースには求められるのでしょう.私たちは,もっと「言葉を探す」旅に出なければなりません.

真田先生「ライフスタイルから考えるこれからの公園」

そういう意味で,今回の「見どころ土木遺産」にてKeisuke Iwata岩田さんが,小樽築港北防波堤を取り上げているのも面白い縁です.廣井勇先生の「未来を見通す技術力」が,小樽築港のパブリックオープンスペースとしての基盤とつくっていることを,私たちは感じ取ることができます.

岩田さんの「見どころ土木遺産」小樽港北防波堤

盛りだくさんな新年号ですが,皆さんも是非袋から土木学会誌を取り出し,パブリックでオープンな眼差しを獲得して下さい!今年もよろしくお願いします.

文責:田中尚人(熊本大学大学院 先端科学研究部 准教授)プロフィールfrom DOBOKU 副偏集長。専門は土木史、景観マネジメント、都市地域計画。趣味は散歩と妄想。文化的景観保全の研究と実践を熊本県を中心に行い、水辺の国土史を紡ぎたいと考えている。著書に恩師中村良夫先生らと編んだ『都市を編集する川-広島・太田川のまちづくり(渓水社,2019.12)』がある。