彼女は夏女

容赦ない日射しが照りつける。午後からは雨が降ると天気予報では言っていたが本当だろうか。疑いたくなるくらいに晴れている。
「なんでこんなに暑いんだよ」
「夏だからじゃない?」
さも当たり前のように彼女は返事をした。
そういうことじゃないんだけど。言葉の代わりに溜め息を吐いても涼しい顔で半歩前を歩く彼女には届かない。
元々の体温が低いせいなのか、彼女は暑さに強い。皆がへばっている中、一人平然としていた。羨ましいが、反対に寒さには滅法弱く、秋の終わり頃から防寒している。
「走ろうか」
極端だよな、なんて呑気に考えていると彼女はとんでもないことを言い出した。
「ただでさえ暑いのに、なんで熱くなることしなきゃいけないんだよ」
「いいからいいから」
「えー」
彼女は笑顔で僕の手を掴んで駆け出した。
寒くなるとテンション急降下で別人みたいに大人しくなるから、夏くらいは彼女に振り回されてあげよう。
僕は彼女の手を握り返した。

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