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我が友、その死について 序

 あーあ、だから言っただろが。うちの看板娘は怒らせるとすげえおっかねえぞ、って。言ったよな? 俺言ったよなぁ? 最初にな? ちょっかい出すのはやめとけって言ったよな?

 あーあーあーあーもう、ひでぇザマじゃねえか。おーい、どんだけ凍らせたんだよ……おい、聞こえたか? 表面だけだってよ。まだ間に合うだろ、この中に治癒魔法使える奴がいるか探して、そいつに金払って治してもらうか……そうだな、全力で走って教会に駆け込めばなんとかしてくれるんじゃねえのかな。金をケチるか時間をケチるか、好きな方にしとけ。

 はァ? 責任取れだぁア? んなことほざいてる余裕があんなら大丈夫だな。だったらまずは飲み食いした料金から払え。当たり前だろ、ここをなんだと思ってんだよお前。宿屋の食堂だぞ? 飯食い処で飯食ったんだから金は払うだろ。普通はよ。

 ギャアギャアうるせえなあ、アイツのケツ触ろうとしたお前が悪いんだろうが。俺は言ったぞ? アイツを怒らせると怖いから、手ぇ出すのは、やーめーとーけ、って、言ったぞ? そうだ、念の為に教えておこうな。その魔法、進行するぞ。氷だからな。どんどん凍るぞ、芯まで。なんなら広がるぞ。全身に。そこまで行っちまうと流石に教会も金取るだろうよ。あいつらはああ見えて金にがめつい……

 おい、あとでこっちの金払えよ! おーおー走るのが速いことで。ルー、教会に連絡入れとけ。金払うまで逃がすなって言っとけ。ちっきしょ、散らかしやがってあの野郎、ほんと躾がなってねえ……

 はい、いらっしゃーい、赤鴉亭へようこそー……はい、店主は自分ですが……ってなんだよ「学府」の連中じゃねえか! お高くとまってる学府の方々が、こんな場末の冒険者宿に何の用だよ。おめえらみてぇなのにふさわしいのは、うーんそうだな、ここ出て右に進んで、広場の……

 俺に、用があるって? 何だ、学府の厄介事はもう請け負わないぞ。あれだけのゴタゴタをやっつけてやったんだ、それにこっちも報酬は受け取ってる。あの件はもう終了だ。は? 違う? 別件? だからこれ以上は……

 おい、なんつった、もう一回言ってみろ。もう一回、言ってみろ。

 なんでアイツの名前が出てくるんだ。アイツはもう、死んだ。死んだ人間に何の用があるってんだ。死人に鞭打ってもどうにもならんぞ……死因、だぁあ? んなもん知ってどうする気だ。

 ははあ、もしかしてお前ら、あのババアの手下か? 知りたがりクソババアの門下生だろ? やっぱりな。あのクソババア、知識欲を満たすためならお構いなしだな! ほんっとうにどうしようもねえクソババアだ、いつか誰かに刺されて死ぬぞ。どうせお前らもケツの穴の皺まで数えられてんだろ。ドロテーア先生のお役に立てるなら何でもしますぅーとかほざいてあれやこれやしたりされたりしてんだろ。

 しょうがねえ。分かったよ。ここで断ってもしつこく聞いてくるだろうしな。ババアを無駄に刺激してもめんどくせえだけだ。アイツから口止めされてる訳じゃねえし、アイツの実家も特に怒りゃしねえだろ。

 ほれ、そこ座れ。いつまでも立ってるわけにはいかねえだろ。長くなるんだよ、話が。あと、その御大層なケープは脱げ。学府の者でございます、って主張してえんだろうけどな、この店じゃただの豪勢な布だ。意味なんかねえ。つうか邪魔だ。見てると俺が苛つくんだよ。テーブルの下に籠があるだろ、その中に突っ込んどきゃいい。おーい、エール出してくれ、みっつ。あと何か適当に残り物。

 さて、と。一応聞いておくが、どこから知った。……まあそりゃそうだよな。山が四つ消し飛んで更地になって三日三晩燃え続けました、なんてババアの興味惹かないわけがないわな。

 まあいいさ。全部話すよ、俺の知っている限りだが。我が友、エリュート・セルシウスの闘争と、その死について。


【続く】



恵みの雨に喜んだカエルは、三日三晩踊り続けたという。 頂いたサポートは主に創作活動の糧となります。ありがとうありがとう。