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大航空相撲、千秋楽結びの一番

 両国航技館の大屋根と連動して、土俵の上の吊るし屋根も左右に開いてゆく。天候は晴れ。先程まで小雨が降っていたため、取り組みの合間に屋根を閉じていたのだ。

「かたや、凄之猫、凄之猫、こなた、白鷲、白鷲。この相撲一番にて本日の、打ち止め」

 対峙して分かるのは凄之猫の恵まれた体格。それは即ち、高出力のジェットまわしを使いこなせるということ。ハイパワーを受け止めきれる体躯。白鷲にはそれがない。

「手をついて」

 行司、七十二代堀越三郎の朗々たる声がターボファンの音を切り裂いて響く。ノズルが瞳孔のように狭まり、吹き出す炎は赤から白へと変化する。推進力を抑え込む足、土俵をまるで掴むように。

 片方だけついた拳、様子をうかがう。しかしそれは刹那の時だ。もう片方の拳が土俵を殴りつけたのはほぼ同時。その誤差、0.02秒。炸裂するジェットエンジンの轟音。爆風と熱。吹き飛ぶタマリ席の座布団。

 真正面から。体格に劣る白鷲はそれを避けなかった。受け止めきれる自信があったからだ。その自信を凄之猫も感じ取っていた。故に真っ直ぐ、挑む。衝突時の衝撃波が航技館を揺さぶり観客たちの鼓膜を破かんばかりに轟いた。

「はっけよい!」

 レドーム軍配をかざし行事が叫ぶ。組んだ両者はしかし一度離れ、上空へ飛び立つ。横綱クラスの飛翔にまわしの下がりがたなびき、白い尾を引いた。まだ湿気が残る上空へと飛ぶ、飛ぶ、空中の微細な水滴さえ彼らを阻む壁となる。が、止まらない。アフターバーナーは勿論全開だ。
 太陽は出ている。雲はほとんど残ってはいない。白鷲は仕掛けた。後も先もない、今のこの瞬間に仕掛ける。白鷲の強みは機動性だ。彼は小兵である。故に、その体躯をこそ活かす。速度を瞬間的に上げる。わずか上空へ。太陽は背に。捻り込む。何たる旋回性能! 背を取った、そう思った。しかし次の瞬間に見たものは凄之猫の伸びる手。圧倒的なレンジの差。

――捕まった!


【続くかどうかは分からぬ】

恵みの雨に喜んだカエルは、三日三晩踊り続けたという。 頂いたサポートは主に創作活動の糧となります。ありがとうありがとう。