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面接の思い出

先月、クリエイティブディレクターの岡康道さんが亡くなった。日経ビジネスオンラインの「人生の諸問題」をずっと読んでいたので、急逝されたことが信じられなかった。遠い昔、一度だけその人と知らずに岡さんと出会っていたことをブログに書いていたので、それをこちらに掲載したいと思う。

※以下ブログFROG★WORKS雑記帳2011年12月21日掲載「教員免許と面接の思い出」より加筆修正

狭い世界の内輪話みたいで申し訳ないのだけれど、美大のデザイン科卒の人間が教員免許を持っているのはわりと珍しいことだったりします。
必須の授業と教職の授業が同じ事が多い、油絵科や彫刻科だと比較的教員免許を取りやすいのですが、デザイン科となると必須の授業を履修した上でさらに、教職の授業を履修しなければいけないわけです。
そして、デザイン科の必須科目の多さと提出課題の多さには定評があり、それでもなお教職なんて取ろうとする学生は、親から教員免許取るんだったら美大に行ってもいいと言われた人が多かったんです。
今でこそ美大に入って企業に就職することは普通ですが、親の世代には 美大卒=食えない画家 みたいなイメージがまだまだあるようで、同級生にも「親との約束なんだよねー」と言ってがんばってる人がいました。

私はと言えば、親に言われたわけではなく、ただなんとなく教員免許持っててもいいんじゃない?なんていう、ふわっとした動機ではじめました。
でも、心理学やなんかを含め教職関連の授業がわりと面白かったなぁと。

しかしながら、仲間達はどんどん離脱していきます。
1年の時には教員免許を取ろうとする同じ科の学生が40人くらいいたのが、次の年には20人と半分に。その次の年には10人に。そして最終的に単位を落とさず、教育実習もやり遂げ、教員免許状を手にした同じ科の学生は私を含めて4人しかいませんでした。
なのにです、そんなに苦労したわりには、結局私は先生にはならず、普通に就職活動して企業に就職しました。

「なんで教員免許を持ってるの?」
就職活動中、ある企業の面接で面接官から受けた質問です。しかも面接官半笑い。

普通デザイン科の人は教員免許取らないし、持ってたら先生になるための試験受けるわけで普通の企業は受けにこないわな。そりゃ半笑いにもなるわ。
でも、極度に緊張していた私は答えました。
「一旦社会に出て仕事をした人が、美術教師として学校で教えられたらすごく面白い授業ができると思います。」
面接官全員爆笑です。
今考えるとものすごく不遜な答えだ。だってそれって先生になるために将来会社を辞めるってことで、会社は転職のための踏み台かよと。

面接の帰り道、我に返って、質問への答えがいちばん言っちゃいけない内容だったことに気づき、これはもう落ちたなと次に受ける企業を探していた一週間後にまさかの面接通過の知らせが届きました。
もうよく分からないまま、とにかくすぐに行われる最終面接に混乱した状態で臨んで、結局その企業は落ちてしまったけれど、なんとなく教員免許持っててよかったなと思ったのは確かです。
少なくとも面接官を爆笑させることができたのですし(笑わせれば内定がもらえるかと言えばそうでもないけど)。

そして爆笑していた面接官が有名なクリエイティブディレクターだったと気づいたのは、それから3年後のことです。
せっかく取った教員免許は本来の意味では使ってないけれど、人生の要所要所で案外キーになっているんじゃないかと思った次第です。

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