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カレーとインド人と会社員

まだ会社員だった頃の話。
私のいた部署は全部で20人ほど、そして、もうひとつの、やはり20人ほどいる部署と一緒に会社のワンフロアーにまとめられていたので、総勢40名以上の大所帯になっていた。机をくっつけた10人の島が4つあり、部長の席は端で全員を見渡せる向き、というよくある配置だった。

ある日のこと、下っ端の私の席からは最も遠い席から怒鳴り声が聞こえてきた。
ああ、また部長が内線電話かけてるのか…、声がでかいよ。そう思いながらも仕事を続けていると、部長がますますヒートアップしてくるのが聞こえてくる。
「・・・だからお前はダメなんだよ!!今日だって言ったじゃないか!なんで決めてないんだよ!はぁ?忘れてただぁ?だったら今すぐ店を決めろよ!」
一言一句はっきり聞こえてくる。
どうやら電話の相手は別の部署のKさんらしく、ウチの部署とKさんの部署とで進めているプロジェクトの関係で今日、外国からお客さんが来るらしい。そして夜の接待の店を担当のKさんは予約どころか店さえ決めていなかったらしい。部長が怒るのもムリはない。怒鳴らなくてもいいとは思うけど。

「だから言っただろ!候補はあるのか?すぐ考えろよ!」
ヒートアップする部長とは裏腹にどんどん冷えていくフロアーの空気。40名全員うつむいて音を立てないように仕事をしていた。
「その店はあの人数は入れないだろうが!他はないのか他は!」
いたたまれない空気。だが、次の瞬間、信じられないような発言を全員が耳にすることになる。
「はぁ?インド人にカレー食わせてどうすんだっっ!!」ガシャーン。
たたきつけられた受話器。静まり返るフロアー。

部長の発言はある意味奇跡だったんだと思う。しかし衝撃があまりにも大きすぎるのと、職場という重圧が40名の笑いを押さえ込んでいた。が、そんなものに耐えられるほど私の腹筋は強くなかった。たまらずトイレに駆け込み深呼吸をして気持ちを落ち着かせていると、すぐに先輩が入ってきた。そして同時に「インド人にカレーって!」と爆笑したのは言うまでもない。

ちなみにインドのお客さんにカレーを食わせようとしたKさんはちょっと天然の人で、悪気はなかったんだと思う。そしてなにより、Kさんがいなかったら部長のあの奇跡の発言は生まれなかっただろうから。会社員時代のアンフォゲッタブルな想い出。

※ブログFROG★WORKS雑記帳2009年10月14日掲載「カレーの想い出」より加筆修正

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