グッタペルカ

 男の一言で、収録現場は混乱に満ちた。周囲の騒ぎ立てに乗じるように、男の手にも力がこもる。ひな壇の2段目に上品そうに座っていたはやりの女性モデルの「ださ」という小さい呟きが、男を加速させた。勢いに任せて、司会者の大物芸人の胸ぐらを掴む。拳を突き上げたところで、昔からお世話になっている先輩芸人が止めに入った。「どうした、どうした木崎。しょーもないことすんなや、な?」この状況に似つかわしくない先輩のカラ笑いが、男を現実に引き戻した。

 「おわった、、、。」真っ先に脳内に映るのは、愛する娘と妻だった。「どうしよ、、、。ほんまにあかんこと、してもうた、、。」

 木崎の人生は、おかんとおとんが最低に滑稽な出会いをしたところから始まる。このおかん無くしては、木崎の人生は語れない。

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