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グッタペルカ4

次の日は、散々だった。 昨日とは見違えるような集中力。ミスが続く。 二日酔いの頭痛と、日韓戦を見られなかったことへのイライラと、部長のアルハラに対する憤り。そんなやるせなさを押し殺しながら、いつもと何ら変わらない単調な作業を続けた。 ようやく午前の仕事を終えて休憩室に戻ると、そこには見知らぬ女がドカッと太々しく座っていた。 女は、贔屓目に見ても美人だった。思わず鼻の下が伸びるが、当然相手にされることもない人生なので、慌てて縮める。 「こんにちは」小さな声で当たり障りのない

    • グッタペルカ3

      その日、幸雄は朝から不運続きであった。 そもそも、部長が悪いのだ。昨日は、仕事が終わってすぐにタイムカードを押し、使い古したママチャリに飛び乗って家路につくつもりであった。予定では、近くのスーパーでビールと30%の割引シールが貼られた刺身を買い、7時から始まるワールドカップの日韓戦に興じるつもりであった。そう、幸雄はサッカー観戦が大の好物なのだ。唯一の趣味と言ってもいい。 勉強は小2で諦めた。高校卒業後、近所の工場長に拾ってもらい、仕事一筋で生きてきた。手先が特別器用なわけ

      • グッタペルカ2

        木崎のおかん、木崎かおり、旧姓山本かおりは「変人」と呼ばれることに慣れていた。 それは小学生の時。かおりがハマったのは、カメムシ集めだった。お友達のサキちゃんやノリカちゃんを家に呼んだ時、かおりはとっておきのコレクションであるカメムシの数々を鼻息荒々しく二人に見せた。その時のサキちゃんとノリカちゃんの悲鳴は、町内中を轟かせ、まちにある一番の大木が根元からずっしりと体を倒したという。この事件を引き起こした当の本人はというと、町の騒ぎはどこ吹く風といった様子でのらりくらりとカメ

        • グッタペルカ

           男の一言で、収録現場は混乱に満ちた。周囲の騒ぎ立てに乗じるように、男の手にも力がこもる。ひな壇の2段目に上品そうに座っていたはやりの女性モデルの「ださ」という小さい呟きが、男を加速させた。勢いに任せて、司会者である大物芸人の胸ぐらを掴む。拳を突き上げたところで、昔からお世話になっている先輩芸人が止めに入った。「どうした、どうした木崎。しょーもないことすんなや、な?」この状況に似つかわしくない先輩のカラ笑いが、男を現実に引き戻した。  「おわった、、、。」真っ先に脳内に映る

        グッタペルカ4