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さらば碧き君の面影

2024年7月1日。午後11時半。
大学時代からの親友が成田空港から出発した。

行き先はイギリス。帰る予定なし。学生気分の小粋な旅行ではない。

彼女はその身一つで夢を叶えに、十数年憧れ続けていた場所に移り住むことを決意した。現地での仕事も借りる家も今日の時点でまだ決まっていない。歴史的な円安の影響でさえも貴方を止めることは出来なかった。

何とも潔く、凄まじい覚悟である。

コロナ禍を耐え忍び、長年待ち望んだワーキングホリデーの枠を掴み取った。出国の為に全ての準備を終えて今日、遂に夢を現実のものにしたのだ。現在は乗り込んだ飛行機の中でぐっすりと眠っているであろう。

正直誇らしくて仕方がない。たまには正面から敬意を表すると共に、素直な気持ちを書き殴ってみようと思った。

現れたヒーロー

まさに青天の霹靂だった。

大学1年時の軽音部で、自分の好きなパンクロックや、60〜70年代のUKロックを共通項として語れる唯一無二の存在として突如目の前に現れた彼女。

生意気ながら誰よりもパンク好きだと思っていた当時の自分よりもよっぽどその時代の音楽や人物関係に詳しかった。既にイギリスに何度も旅行に行っており、アビィロードやバーウィック通りにも足を運んでいた。

留学経験もあり、英語はぶっちぎりで一番上のクラス。話をすれば、やれU2のライブを親父や兄貴と一緒に観ただの、幼少期にSex Pistolsを見て衝撃を受けただの、正真正銘パンクロックのサラブレッドだった。

音楽を愛し、その気持ちを曲げずにずっと生き続けてきたという事実が彼女の言動や行動から痛いほど溢れていた。大学で会う度に音楽の話をした。当たり前のように話が通じる。知らない音楽やバンドを沢山教えて貰った。
形容出来ないほど嬉しかった。

小学校からパンクやUKロックに憧れては周囲に語れる友人がおらず、その度に胸の奥に閉まっていた私の綻びが、遠慮せずに外に漏れ出していく。
それは「自分の好き」を他者に正面切って力強く肯定して貰った事に他なく、初めての経験であった。核の部分が解氷されていく。

大学4年間、その中でもごくごく短い時間だったけれど、一緒にバンドを組んだ事は必然だったように思う。あの時間は誰にも奪えない永遠だ。

Podcastの相方として

自分の大好きな音楽について語るだけのPodcastを始めたいと思ってから、大学卒業後、久々に連絡をとったのが2度目のきっかけだった。相手は彼女以外に考えられなかった。

数年ぶりの唐突な連絡にも変わらぬ様子で、誘いを二つ返事でOKしてくれた時、とても安堵したのを覚えている。どうか音楽に対するその熱量だけは変わらないでいてくれ、折れていないで欲しい、と切に願っていたからだ。

互いに社会人経験は短いながらも、その間に山と谷があり、きちんと疲弊したり、精神がすり減ったりしていたが、好きな音楽の気持ちは双方変わらなかった。それがどれだけ喜ばしかったことか。そして頼もしかったことか。

それから丸2年が経過した。正直数ヶ月も経っている気がしない。話をしている中で遅かれ早かれ運が巡り、いつか海外に旅立ってしまうだろうと確信していたが、予想通りこの日が来た。その事にもはや驚きはない。

番組というよりか、二人の生存確認と進捗報告の時間にもなっているが、これがお互いの長い人生をかけて続いていけば良いなとそう願う。

あとがき

今夜を境に私達はもっと歳を取り、内面が成熟した最高の状態でまた地球のどこかで出会うに違いない。その日が待ち遠しくて堪らないのだ。

貴方の軽やかさと強い信念に心からの感謝と、溢れんばかりの敬意を捧げます。どうか幸多からんことを。

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