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営利団体への労働力無償提供について考える

最初にお断りをしておくと、本稿は労働力の無償提供を推奨するものでも、否定するものでもありません。また同様に、従業員および労働力提供者に対する賠償請求を推奨するものでも、否定するものでもありません。
労働力の無償提供をする側と、される側が、知っていなければならないリスクを認識する事で、不幸な結末を産み出さぬよう啓蒙する事を目的としております。​

1.営利団体への労働力の無償提供ってなんだ?

いわゆる「タダ働き」真っ先に思いつくのは「ボランティア」って言葉なんだけど、ここでは「個人の営利団体に対する労働力提供」について話したいので「ボランティア保険」で保険の適用になるものは除外。プロの顔つなぎサービス労働とか、サービス残業、出向などそういったのも除外したものを「タダ働き」と呼んでいきます。

2.なんでタダ働きなんてするの?

金銭では得られない対価を得られるからなんですね。プロと共に行動するお弟子さん。無給のインターン(有給は除く)。プロとして活動する前に自分の実力を市場で試したい、プロ前提。アマチュアで活動をしているが、自分の実力を披露する場としてプロの舞台を利用する、ハイアマチュア。そして最近急増している自分の推しに対する労働力の無償提供、名付けて「推しワーク」などがあります。

3.労働力提供側のリスクって?

故意、または過失による賠償請求の可能性があります。無償の労働に責任なんかあるものかと思ったら大間違い。ちゃんと責任はあります。従業員は仕事で失敗しても賠償請求されないのに、無償の労働は請求されるのか?と思うかもしれません。が、実は会社側は従業員に対して賠償請求は可能なのです。ただし、どちらも会社にとって利益をもたらす行為上での結果であるため、故意または重大な過失でなければ、訴えは退けられることが多いと思われます。この辺りは損害が大きくないと法廷で争う事が無いため、実態はわかりませんが「請求は可能であって合法である」という事を覚えておいてください。ちなみに従業員に対して「遅刻は罰金一万円」のような取り決めを事前にすることは違法です。

労災は出ません。そもそも労災は労働者の保護を目的にしていますので、労働者ではないものには適用外になります。これは雇用契約と業務命令の有無が争点になりますので「休日に草むしりしとけ」などという従業員に対する上司の命令は労働とみなされますので、ケガをした場合は労災認定されますし、給与の請求が可能です。
では雇用契約が無い場合は?そもそも命令に従う義務が無いわけですから労災は適用外というわけです。では全額自己負担かというと、交通事故と同様に過失割合が争点になります。例えば会社が管理する設備の不良による事故の場合が考えられますが、そのような事が無ければ全額自己負担という事になります。
もちろん、事故や災害時の怪我について事前の取り決めがあればそれに従う事になりますので「何かあった場合の責任の所在」はハッキリさせておきましょう。

4.労働力授与側のリスクって?

お客様から見た場合、その現場で働いていれば正規の従業員であろうと、雇用契約の無いタダ働きだろうが無関係です。お客様からのクレームや過失による賠償請求は会社が追う責任があります。「うちの従業員じゃないから文句は直接彼に言ってくれ」などと無関係を装う逃げ口上は法律上許されません。使用した責任が会社にあるからです。タダだからいい加減でいいなんてことは会社側も許されるものではなく「ちゃんと条件を提示して契約を締結」すべき事です。

賃金の発生があります。あれ?っと思うかもしれませんが、賃金に関して双方で決まりなく人を使うと、その労働に見合った賃金を請求する権利が発生します。会社として利益を得ているわけですので当然と言えば当然なのですが、労働した側は権利を行使するも放棄するも自由です。
つまり、第三者の視点から見ると「労働に対して賃金は発生している」というのが自然で、タダ働きは異常な状態となりますので、源泉徴収義務違反の容疑で国税の査察が入ります。この時「やっぱりタダ働きとか割に合わない」と、運悪く労働提供側と賃金の支払いについてもめていた場合、労働基準法違反もしくは下請法違反容疑で労働基準監督署もしくは公正取引委員会の査察が入ります容疑が晴れたとしてもそれまでにかなりのコストを強いられます。

命令に従わない可能性。もしくは期待した品質に達さない可能性。発注書、仕様書、スケジュール通りの進行をしない可能性があります。金銭の支払いを前提としていないので、それらで行動を縛ったり、成果や品質を期待する事は出来ません。労働の質に関わる損害賠償請求はかなり難しいと思われます。

5.Win-Winでありますように

昔から「タダより高いものはなし」と申します。自営業の親戚手伝いで「こんだけやったらメシぐらいごちそうしてくれてもバチ当たらんやろ」と言われて、食わせたメシで足が出た。なんて笑い話もあります。その程度のお話しなら良いのですがね。
それはさておきマイナンバー制度により副業収入が明らかとなり、副業禁止の会社も少なくないため、今やハイアマチュアや推しワーカーが活躍する過渡期であります。が「金銭の授受により成果や品質を約束する」という行為が経済の基本であるという事をお忘れ無きように。
いずれ、人件費高騰と労働人口減少により、時間拘束型の労働形態や副業禁止の会社規約は減少するでしょう。その時にマネタイズしたくなっても、過去のしがらみで出来ないなんて事はザラにあります。
面倒な事は放置すると、イザという時により面倒な事になるものです。こんなハズじゃなかったと後悔しないためにも、どのような労働契約をするのかちゃんと取り決めましょう。特にプロ前提やハイアマチュアの人は、労働結果の公表に関してキッチリ決めておかないと、自分の実力を世間に知らしめることも出来ず、タダ働きのくたびれ儲けになりますよ。


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