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紅葉鳥 #シロクマ文芸部

紅葉鳥さん・・・
そう呼ばれたよなうな気がして見上げると、真っ赤に色づいた紅葉の葉が僕を見下ろしていた。
「僕は鳥じゃないよ、鹿だけど」
そう答えると紅葉は言った。
「でも、紅葉鳥とも呼ばれているのよ。その理由はね、ずっと前、まだ私が初めて色づいた葉を散らしたころ、ここにある小川はもっと流れが速く、深かったの。ある日、川底の石に挟まれて沈んでいる赤い葉を見た鹿が
『なんて美しい、揺れるルビーみたいだ』とつぶやいた。そして川に入って行ったの。けれども底の石はつるつるで足を滑らせ、深みにはまって流され、それきり帰って来なかった・・・」

「へえ、可愛そうに」僕は川の澄んだ流れを見ながら言った。川底に落ちた紅葉が流れを通して差し込む日の光をうけてゆらゆら揺らめき、本当に揺れるルビーのようだった。

「数年後、この川に紅葉の葉そっくりな羽をした赤い鳥がくるようになった。その鳴き声があなたの声とそっくり。だからあの赤い鳥は鹿の生まれ変わりにちがいない、と思っているの」

その紅葉の話を聞いて僕は一声鳴いてみた。すると、はるか遠くからそっくりの声が聞こえ真っ赤な羽をした鳥が飛んで来た。僕の上を羽ばたくと、ついておいでというように、飛び去って行く。僕はその後を夢中で追いかけた。気が付くと何か体が軽い…いつのまにか赤い翼がはえ、僕は空を飛んでいたのだ。

振り返ると、紅葉の木が風に吹かれ、その枝を葉を差し出すように揺らしている。鳥の羽ばたきのように。あの紅葉の木もきっと鳥になりたいのだ、と僕は思った。

           おわり


さくらゆきさん作、紅葉鳥、ご本人の許可を得て掲載させていただきました。



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