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ラムネの音

ラムネの音と言えば、ポン!シュワーだろうか。それと夜店の大きな氷水の入ったポリバケツに浸されてコン!コン!と瓶同士が触れ合う澄んだ音。

小さいころ近くのお寺の境内に年一回夜店が出て、母と出かけるのが楽しみだった。浴衣に、「三尺」という柔らかい帯をふわりと金魚のような形に結んでもらい、焼きイカの匂いを嗅ぎながら歩く。決まって買ってもらったのはヨーヨー。どきついピンク色に赤や青で波打つ線が描かれたヨーヨーは、どんなに大事にしても二日ほどでしぼんでしまったが。

急拵えの芝居小屋では、いかにもそれとわかる粗末なかつらをつけた役者たちの立ち回りに、小学生たちが名前を呼び、サインをねだった。芝居の後は舞踏ショーで、鬘を脱いだ役者が髪を巧みにかきあげながら踊る様子が面白く、家に帰ってからその動作を真似して踊ったりした。

植木市もやっていて、柏の苗木を買った。祖母が月遅れの端午の節句に柏餅を手作りしてくれたが、毎年葉を近所の家からもらい受けていたため。苗木を大事に抱えて母と帰った道は楽しくて、夕闇のなか家へと白く伸びる道がもっと長かったらいいのにと思ったものだった。

何かの拍子に蓋がポン!とはずれて懐かしい思い出がシュワ―と溢れ出ることがある。二度と戻れない日はほろ甘くツンと鼻をさす。あのラムネのように。

          おわり


小牧さんの企画に参加させてください。
小牧さんお世話をおかけしますがよろしくお願いいたします。


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