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金持ち教習所

家から徒歩10分の金持教習所へ通い始めたのは、無職になった35歳の春だった。
運動神経0、走る凶器を運転するなんてまっぴら、と思っていたのだが、ぽっかり空いた時間を埋めるために免許を取ろうと思い立ったのだ。案の定カーブは曲がれない、ウインカーは出し忘れるなど失敗ばかり、皆あきれ顔のなか、一人だけ根気強く付き合ってくれた教官がいた。

免許を取るまで三カ月もかかったから、彼とはだいぶ親しくなり、一つ年下でバツイチ子持ちであることも分かったが、恋に落ちていたわたしには、ちっとも気にならなかった。

やっと免許がとれたとき、教習所脇に止められた彼の車のドアの取っ手に小さな手紙をテープで貼った。お礼の食事の誘いと、スマホの番号を書いて。付き合い始めて3か月、ついにプロポーズまでこぎつけた!

わたしは免許ばかりでなく、運転上手の優しい夫と、3歳の可愛い息子まで手に入れた。
金持教習所でお金以上のものを得たのだった。

         おわり(414文字)

           
たらはかにさんの企画に応募させてください。
たらはかにさん、お世話をおかけしますがよろしくお願いいたします。

金持、という苗字の知り合いがいるので、金持教習所、と自動車学校の名前にしてしまいました。その金持さんは文字通りお金持ちでステキな洋服を着、息子さんは有名私立小学校に通っていました。「名は体を表す」です。  


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