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ズボンの棒グラフ

今日は雨だ。閉め切った窓を通して雨音が聞こえる日は、かなり降っている。空からの雨音よりも、近くの幹線道路を走る車が、道路の水を跳ね飛ばす音の方が大きく聞こえる。5分毎に走っている電車音も混じって、雨の日は音だらけ・・・

そんななか、用事があって出かけた。もう通勤時間も過ぎていたのに、ホームには、電車を待つ人が列を作っている。上着を着ている人が多く、Tシャツだけの人は寒そうだ。ズボンの裾を濡らしていると、なおさら・・・

歩いてきた
距離の分だけ
それぞれに濡れて
雨のホームに並ぶ
ズボンの棒グラフ

改札口に近づいて、待ち合わせの友達と、「おはよう!」声を掛け合っている人を見かけた。昔、恋人と改札口で待ち合わせをしていたことを思い出した。

あなたが近づいて来る
あと五分たったら
わたしを見つけて
笑顔に変わるなんて
わたししか知らない

彼とは遠距離恋愛、駅で別れるときは本当に悲しかった。
新幹線のホームまで送りに出たのだが、階段の手前で、彼があくびをしているのを見てしまった。疲れていたのだろう。一か月たたないとまた会えない、と泣きそうだったわたしにはショックで、よくこんなときあくびなんかできるもんだ。と腹がたった。不機嫌になったわたしに、「どうしたの?」と彼は不思議そうだったが・・・

改札口にはドラマがある。毎週父と見ていた、「男はつらいよ」では、柴又の駅で寅さんと妹のさくらさんの別れのシーンが繰り返される。

電車に乗ろうとしている寅さん、改札口を駆け抜けて追ってくるさくら。
「お兄ちゃん!どこに行くの」
「そうさなぁ風の吹くまま、気の向くまま・・・これから寒くなるから、南の方へでもいってくらぁ」
「おにいちゃん、これ」お金らしいものを渡す。
「いつもすまないなぁ、年寄りを頼むよ」

ここらへんで電車のドアが閉まる。
「お兄ちゃん!」叫ぶさくら。ドア越しに手を振る寅さん。

いつ見ても切ない。

最近テレビで柴又周辺を紹介する番組を見た。
柴又駅は、すっかり近代化され、自動改札は銀色に光っている。
もうさくらさんが走り抜けたりできない。

寅さんが帰ってきたら、すっかり変わった駅に驚くだろう。

おいさくら、これはいったいどうなったんだい
馴染みの駅員に挨拶もできゃあしない
きっちり閉まっちまって
これじゃ、通っちゃいけない、って言ってるようなもんじゃないか
自動、自動って
結構毛だらけ 猫灰だらけ・・・・

目的の駅に着いた。幸いにも小ぶりになっている。
風が出てきたようだ。

風にまぎれて
ちぎれた雨は
姿見せたり隠れたり
見つけてごらん と 
得意顔

                おわり

   


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