【レポ】ぶんかじ日記

まえがき

ぶんかじとは!ル・グウィン著の小説教本「文体の舵を取れ」の略称である。

この本に挑む我々は、無限の広がりを見せる文章の海を渡る航海士となって、己の文体の(主に技巧面での)舵を取らねばならないのだ!
グウィンの用意した数々の練習問題に挑んで心の赴くままに文章を綴ることを楽しみ、ときには仲間たちと披露しあい、ときには議論をする…巷にはそんな楽しいサロンが無数にあるのだという。実際、ちょいとググればたくさんの航海士たちの声を聴くことができる。
どうですか?興味が出てきませんか?そんなの絶対楽しいじゃん。

ず〜っとインターネットのみんながやってるのをいいな~、いいな~と横目で眺めるばっかりだったのですが、それも今日まで。やさしいオタクたちがやろうぜと声をかけてくれたので、わたしにも「ぶんかじ」に挑戦して楽しく切磋琢磨できる機会が訪れたのです。

このnoteは興味を持った方の一助となるよう、レポートとして残すものです。

今回ぶんかじやろ~ぜ!の声に集まってきたオタクたちは以下の4名。ディスコードにサーバーを作成し、そこで文章を貼ったり喋ったりしています。

frifriopanchuさん(わたし)
メインは漫画。髭が好き。文章は柔らかめ。
haruさん
メインは論評。哲学に詳しい。文章はいろいろいける口。
末吉さん
メインは論評。ぼざろが来ている。文章はいろいろいける口。
ホンマチさん
メインは小説。酒飲み。文章は硬派。

ブンブンチョッパーの話をしている

ルールは以下の通り。(随時変更)

・課題となる章は読んでくる。
・当日は1時間程度課題についての所感を述べたり(大体雑談)をする。
・30分間で作文する。
・各々自分が書いたものを読み上げ、ここがいいねここがこうだねみたいな話をする。
・二次創作でもいいよ。

第1章

文章はうきうきと。
まずは楽しく声に出してきもちのよい日本語を意識的に綴ってみよう。の回。
具体的な課題の内容については、ちゃんと本を買ってお前の目で確かめてくれよな!


課題1


週末は散歩に出かけよう。今そう決めた。ここのところずっと忙しかったから、真昼の日光を全くもってこれっぽっちも浴びれていない。太陽に目の奥が刺されるのを、つむじが炙られるのを、首筋が灼けつくのを、からだ一杯楽しみたい。この初夏の晴れの休日を逃す道理はない。
土曜の朝になったら、履き古したスニーカーを引っ張り出そう。きっと革靴に疲れた足がホッとする。新しいジャケットをおろそう。きっとデニムの青が空気に似合う。気になっていたカフェに行こう。きっと美味しいケーキがある。土曜の朝になったら、土曜の朝になったらきっと!
背中に何人ぶんもの体重がずずずと掛かり、喉から絞り出された息がぐぐぐと鳴った。毎日こんな箱に詰められていると、今日の運転手が割合へたくそであることがなんとなくわかる。電車の運転にも上手い下手があるなんて変なの。(360)

総評:
似たセンテンスを並べたり、オノマトペを使ったりして、「うきうきさせるぞ!」という気持ちだけはある文章です。リズム感はかなり意識しました。
何よりも文の「癖」がはっきり出てしまっているところが面白いですよね。15分で捻り出てくる文章なんて「いつものやつ」になるに決まっているのですが。「変なの」のあたりなんか完全に好きな文章の空気をそのまま真似っこしているかたちになります。

課題2

キャベツを安く買えたので弾んだ心持ちで帰宅した。近所のリッチなスーパーに売っていた初物の春キャベツは、採りたてをそのまま持ってきたかのような佇まいで、少し泥に塗れたところに心惹かれた。
早速、回転式野菜破砕器…つまりブンすると野菜がチョップされるあれ…をブンブンぶん回す。せっかくだからコールスローを山盛り作ろうと思う。
あっという間に粉々になったキャベツをスプーンで掬い出す。鮮やかな緑色の山がボウルの中に積み上がる。少しずつ繰り出しているうち、ふと、想定とは違う色が目にとまる。灰色というか、茶色というか、そう、魚かなんかの肝のような…。
残念ながら事態を脳みそが理解する前に、目線が「それ」を見つけてしまう。産毛の生えた、つぶらな瞳、緑色の、コロンとした。ああ、どうして人の体は本当に驚いた時に本当に知らない動きをするんだろう。気がついた時には床もコンロも食器棚も全部緑色の破片まみれ。カランカランとスプーンが転がり、やがて音は止んだ。最悪だ。今日は木曜日で、明日も仕事で、早くご飯を食べて寝てしまいたいのに。でも放っておくのは無理。だって、そのままにできるわけないじゃん、芋虫のどくろ…。(495)

総評:
動きのある文章を書きたかった割にはボウルをひっくり返した動作そのものの描写はしてない。書いてて意識が吹っ飛んだ感を出そうとした覚えはあるのだが、完全に趣旨を忘れている。一段落と指定があったのにそれも守れていないし…。というところでだいぶ悔いがあります。
時間がなかったけど最後「この部屋のどこかに芋虫の死体がある」状態についてもうちょっと強調したかったな。見失っているんですよ、芋虫の頭を。最悪だね。

「魚かなんか」が気持ちいいねといわれて確かに…となった。音が気持ちよくてうれしいということに気づくためにも音読は重要。
なお、ブンブンチョッパーをブンブンチョッパーとして記述するのは野暮かなと思って婉曲表現を使ったのだけどそもブンブンチョッパーが一部の人に伝わらなかったという。コールスローの一文は(このセンテンスにおいては)なくてもいい。

感想

■残念ながらこのnoteには載せられないのだけども、haruさんと末吉さんが口語調の「語り」の文章を作っていたのが楽しげで非常に良かった。
ネイティブゆえか、日本の方言の語りをかっこよくやるのってめちゃくちゃ難しい気がするのだけど、扱うテーマによっては大分迫力が出るし映える。
「アメリカ南部訛り」とか言われた時の代替品はいったい何だろうか。広島弁?ちょっと荒っぽい感じはそれらしいが、地の分すべて広島弁で記述された小説ってなかなかすごくない?このあたり、日本は「標準語」に親しみすぎているきらいもあるのかもなと思う。

■ホンマチさんは短文で畳みかける情景描写がお好きらしい。一番短い文章だったというのに、重厚な雰囲気とただならぬ様子のはしっこが伝わってきたので、長編で読んでみたいものですね(既刊を読むためにアイカツを見るか…?)

■というか本来こういうこと会の中でバンバン言ってかなきゃいけないんですよね。まだちょっと手探りで照れがあるというか心理的安全性が担保されていない…

■なお今回は宿題なし・30分の時間制限を設けての現地作成で挑戦していますが、これは(2題だったのもあって)結構時間がなくてしんどかったですね。課題の内容とかとも照らし合わせてパーティの都合に合わせてやるのもいいかもしれない。多忙な人ばっかりで宿題形式にすると出てこないパターンも多いでしょう。

■グウィンは当然ながら英語圏の人間であるので、説明されているテクニックを日本語に落とし込んだ場合感覚的にわかりづらい場合もあった。が、原文だとどうなのかとか訳者がどういう姿勢でやってんだとかやいのやいの言うのも楽しかったからよしとする。

次回

句読点と文法

いきなりセミコロンの使い方を説明される。つ、使わね〜!

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