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映画『ルックバック』感想|「じゃあ、藤野ちゃんはなんで描いているの?」の答え


画像参照:『ルックバック』公式サイト

映画見ました。
ネタバレします!

この映画がおすすめな人。
  -原作漫画が好きな人
  -見ようか迷っている人
  -人生を頑張っていた or 頑張っている人

原作は漫画だが、読んでいなくても楽しめる。
私は原作漫画を読んでいたので、漫画がそのまま動いているように感じ、映画の完成度には感動した。

58分間と短い映画だが、ストーリーがギュッと詰まっているので、短く感じない。
見終わった後は2時間映画を見たような疲れもあった。

気になっているなら、とりあえず見ることをオススメ。
漫画が先でも、映画が先でも問題はない。

私の感想は「クリエイターは、とにかく見てほしい」です。

》予告映像
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※ここからはネタバレ※

深堀りワード
「そろそろ絵を描くの卒業したほうがいいよ」
「描いても何も役に立たないのに」
「じゃあ、藤野ちゃんはなんで描いているの?」


▼「そろそろ絵を描くの卒業したほうがいいよ」の解釈

誰かが頑張っている姿を見て邪魔するつもりはなく、ただ心配からそう言ってしまうことがある。

クリエイターたちは自分の作品に対して常に厳しい目を持ち、上手な作品を完成させても「まだまだ」と感じたり、「他の人と比べると見劣りする」と自己評価を下げがち。

他人の努力を目の当たりにすると、「自分ももっと頑張らなくては」と焦ることも。

どれだけ時間と努力を費やして技術が向上しても、完全に満足することはなく、常にさらなる上達を目指して筆を進める。
周囲の人々はその情熱を心配することもあり、「いつまで漫画を描くの?」や「そろそろ絵を卒業したほうがいい」というような言葉をかけることも。

漫画に限らず、努力をしているときに「もう諦めて、そろそろ他のことに挑戦した方がいい」といった、否定的な言葉を言われたことは誰にでもあるはず。

これらの言葉は否定的に感じられ、彼女ら自身も普通の生活を送ることの難しさを知りつつ「上手くなりたい」という強い願望に突き動かされる。
周りからは「もう十分うまい」と言われることもあるが、常に自己の技術をさらに高めたいと考え、独自の道を歩み続ける。

たとえどんなに上手くなっても、自分よりもさらに上のレベルを目指す人がいるため、自己満足にはなかなか至らない。
このような感情は、創作活動に没頭するクリエイターにしか理解できない孤独と戦いの連続。

▼「描いても何も役に立たないのに」の思い

京本の葬儀のあとに藤野が言ったセリフ。
「描いても何も役に立たないのに」

もし藤野が京本を誘っていなかったら?
そんな世界が描かれて、振り返ると「いつだって京本がいることに気づく」。

京本の部屋には、藤野が連載している漫画の単行本が多くあった。
作者の藤野よりも持っていた。
ずっとファンでいてくれる京本の存在を、改めて思い出した瞬間。

漫画を描くことを諦めるきっかけとなった京本と、一緒に漫画を描き始めた藤野。
小学生の頃から比べられていた人。
初めて自分の作品のファンだと言ってくれた人。
ずっと一緒に創作をし続けてきた人。
藤野の苦しみも喜びも理解している人。

世界で一番、藤野のことを応援していた人。
京本の部屋を見て、藤野もそう感じたと思う。

藤野は連載漫画を一人で描いていた。

どうして頑張っていたのか。
どうして漫画家になってつらい連載をしているのか。

「描いても何も役に立たないのに」。
京本を一緒に漫画を描けないことを、ずっと受け入れることができないでいたのだろう。

描くことが好き。
漫画が好き。
それはいつしか「京本と一緒に漫画を描くことが好き」になっていたのだと思う。

▼「じゃあ、藤野ちゃんはなんで描いているの?」の答え

うまくなりたいから。
もっとうまくなりたいから。
自分が満足できないから、描き続ける。

楽しみに待っている人がいるとか、そんな理由ではない。
「漫画を描くことが好き、だからうまくなりたい」というシンプルな感情が、描き続ける理由なんだと思う。

藤野は漫画を再開するきっかけとなった、京本の4コマ漫画を窓に貼り付ける。
京本が亡くなったあとも、漫画を描き続ける藤野の後ろ姿のエンドロールで『ルックバック』は終わる。

京本と一緒に描き続けるという思い、どんなことがあっても、漫画を諦めることができない藤野。

雪の降るコンビニでマンガ賞の結果を確認する二人。
初めて得た賞金で、初めてのお出かけ。
これからもどんどん漫画を描いていこうと未来の希望を語る。
同じ部屋で黙々と作品を創り続け、季節が過ぎていく。

この時間と友情をなかったことにはしたくない。

「じゃあ、藤野ちゃんはなんで描いているの?」
京本と出会えた奇跡、友情、努力を忘れたくない。
漫画を再開した理由は、京本に支えられてきた軌跡を大切にしたいから、描き続けていくのだと思う。

▼自分がクリエイターなのか、消費者なのか

頑張っている人に対して「そろそろやめたほうがいい」と思う立場なのか、「一緒に頑張ろう」という側なのか。
それはこれまでの生き方で大きく変わっていく。

どう考えても、絵で生きていくことはリスクである。
絵だけではなく、音楽、ゲーム、文学、映像、演劇などのすべてのクリエイティブでも言える。
だから現実的な意見を述べる。

少しだけ違うことは「藤野と京本は、学生の時から努力を続け結果をだしている」ことである。
中学生のときには漫画賞を獲得しており、賞金も手に入れている。
その後もコンスタントに結果を出し続けている。

「正しい努力を続けて来て結果がでているから、応援することに抵抗がない。」
実際、賞を取る前の描写は「苦しい」を多く感じた。
賞を取ったあとは「楽しいし、応援する人が周りにいる」ように感じた。

これは現実世界でもあるある話。
肩書や見た目、数字で人を判断してしまう。
学歴がいい人は優秀だと思い込むし、美男美女は少し怖く感じる(私だけかな…笑)
学歴がない人は、それだけで世間の見る目が下がる。

ルックバックを見たクリエイターは共感をするだろう。
クリエイターなんて目指すものではない。辛くてしんどいぞと。
でも、それ以上に踊りだしたくなるくらいに嬉しくて、忘れられない瞬間もあるぞと。
生みの苦しみと喜びを知っている。

消費者は、応援したい気持ちになるだろう。
頑張っているから、サインをもらおう、すごい先生になれるぞ、自分にはできないことをやっていると。
でも、それ以上に体を大切にしてほしいし、所詮はエンタメなんだから無理はするなと。
生みの苦しみと喜びを理解はできない。

わたしは「クリエイターを目指して諦めた人」。
辛い気持ちもわかるし、応援したくなる気持ちもわかる。
だから、なんだか、一緒に頑張ってくれる仲間がいる藤野と京本は羨ましくも感じた。

今頑張っている人が5年後にみると、感想が大きく変わると思う。
結果を出す前、結果が出したあと、結果を出し続けることをしているとき。

どんな場面でも、全クリエイターを応援する素敵な作品だと心から思う。

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公式サイトより参照
映画:ルックバック
ジャンル:ヒューマンドラマ / アニメーション
製作国:日本
公開日:2024年06月28日
上映時間:58分

原作:藤本タツキ「ルックバック」(集英社ジャンプコミックス刊)
監督・脚本・キャラクターデザイン:押山清高
美術監督:さめしまきよし
美術監督補佐:針﨑義士・大森崇
色彩設計:楠本麻耶
撮影監督:出水田和人
編集:廣瀬清志
音響監督:木村絵理子
音楽:haruka nakamura
主題歌:「Light song」by haruka nakamura うた : urara
アニメーション制作:スタジオドリアン
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