面積の拡張とルベーグ積分~その1~
最も挫折率の高い分野!?
大学の解析学の中でもルベーグ積分は最も挫折する人が多いのではないだろうか?
少なくとも私が学生だった頃はそうだったが、今は分かりやすい本も多いと思うので学生の印象は変わるのだろうか?
この分野は高校までの積分(※リーマン積分という)の捉えなおしという側面を持っていて、積分と言うのだからやっているのは関数が作る面積の定義のし直しなのであるからイメージ図的な直感と結びついていなければ理解してるとは言えない。数学的な文章からそれがイメージし辛いというのが難しさの根幹をなしているのではないだろうか?
リーマン積分のミス
ルベーグ積分の学習後は$${\int}$$という記号を見たら、それはデフォルトとしてルベーグ積分の事だと思うのだが、リーマン積分では不都合があったからそう思うのであってその不都合を言葉に出して言えるだろうか?
まずリーマン積分とはリーマン和$${\sum_{i} f(\xi_i)|\Delta x_i|}$$の極限の事なのだが、これは積分のイメージに対してストレートな定義ではない。
即ち積分とは関数fが作る$${n+1}$$次元の面積の事であるが、
①関数fのある高さと、その高さに対応するn次元面積(※fの逆像)を掛ける
②それをfの値域全体に足し合わせる
と言うのが我々がイメージする定義したい積分の直感である。
リーマン和は少なくともそれに対するストレートな表現法ではない。そうなっている理由は積分のストレートなイメージを数式化してしまうとアルゴリズムとして計算が難解になるからである。つまり、
①ストレートなイメージと
②アルゴリズムとしての計算のしやすさ
を混ぜてしまったのがリーマン積分が引き起こした論理的な取り扱いについてのミスである。
大学以降はこれを反省し、
①ストレートなイメージからの定義=ルベーグ積分
②アルゴリズム的な定義=リーマン積分(今までの定義)
にまず分ける。しかし、リーマン積分がアルゴリズム的な要素を含んでしまった定義とは言え、ルベーグ積分を学ぶまで自然な定義に見えていたと思う。これはリーマン積分とルベーグ積分の密接な関わりを表し、実はリーマン積分可能な範囲においてはルベーグ積分の値がリーマン積分値であることが言える。つまり、アルゴリズム的計算可能な範囲ではそのアルゴリズムは有効であるという事が示される。このことをもってルベーグ積分はリーマン積分の拡張概念であると言われる。
アルゴリズムと論理のギャップ
ではリーマン積分のどの部分が論理的可能性を捨て去ったアルゴリズム的定義であったのだろうか?
それは区分求積が表しているx-空間における連続的な区分分けの部分である。もっと言うとx-空間を矩形に分けた後に、リーマン和として代表点$${\xi}$$を選ぶが、その$${\xi}$$が積分値に影響を齎してはいけないことを求めたことが、積分の行為と本質的に無関係なfの連続性を本質的に必要としており良くなかったのである。即ち矩形の面積を0にするという極限操作に対してfが一定値を取るという事は取りも直さず関数の連続性の定義と同じである。事実、連続であればリーマン積分可能というのはよく知られているが、本質的にその連続性はリーマン積分可能に対する必要条件でもある。(※例えばフーリエ解析入門(プリンストン解析学講義)の付録を参照の事。)
ルベーグ積分の定義
ルベーグ積分は基本的に単関数近似に対する和$${\sum_i a_i \mu(S_i)}$$の極限として定義される。ここで$${a_i}$$はfの高さの代表。$${S_i}$$はそれに対応するfのn次元逆像。$${\mu}$$は測度と呼ばれる$${S_i}$$という図形の面積を出すものである。
こう定義すればfの連続性が必要になることは無い。
そして定義を見れば分かるように、積分の本質は$${\mu}$$の構成である。これは積分のイメージが高さとそれに対応するn次元面積の掛け算と思えることから、積分と言う一定のルーチンを常に念頭に置けば積分の本質はそのn次元逆像の面積導出構造と自然にみなせることから分かる。つまり積分と測度は常に同じなルーチン差を除けばほぼ同等の概念である。
ルベーグ測度の構成
然らば、問題はリーマン積分と可測(※積分というものを考えれるfのこと)の概念が異なる(拡張になる)ように測度を構成すれば良いということに帰着したのだが、我々はx-空間がn次元ユークリッド空間の場合に規範となる測度(ルベーグ測度と呼ぶ)を構築し、それを用いると可測領域が実際に拡張されるという事を示す事ができる。
n次元図形Bが与えられた時に、n次元立方体の列$${B_i}$$で括る(※即ち$${B \subset \cup B_i}$$)。立方体の面積は当然縦×横なので、面積が分かるもので近似しているという事なのだが、この積分値$${\sum |B_i|}$$における括り方に対する下限をルベーグ外測度と呼ぶ。ルベーグ外測度がBの面積に十分近づいた思える場合その外測度をルベーグ測度と呼ぶ。(※細かい所が気になる人は例えば、「ルベーグ積分講義: ルベーグ積分と面積0の不思議な図形たち」新井を参照。)。また、外測度が測度になるBをルベーグ可測集合と呼び、ルベーグ測度はルベーグ可測集合上で考えるものとする。
※注意として、ここでは面積の事を測度と呼んだが、測度$${\mu}$$はルベーグ可測集合に対してルベーグ測度を出す集合関数として定義されるので、慣れれば分ける必要はない。
積分例
関数fを$${[0,1]}$$の有理数上で1を取り、無理数と$${[0,1]^c}$$上で0を取る関数とする。この積分を考えよう。
有理数が加算個しかないことから有理数$${q_i}$$を面積が$${\epsilon / (2^i)}$$となる立方体$${\epsilon_i}$$で括る。とすると、ルベーグ外測度は$${\epsilon}$$以下となるが、$${\epsilon}$$は任意で考えたものだから外測度は0である(※外測度が0の場合は測度も0)。
これを基にルベーグ積分の定義から積分値は$${1 \times 0 + 0 \times \mu (\mathbb{R})}$$以下より0となる。リーマン積分では連続性が本質的必要条件であったのでこの時の関数はルベーグ積分でのみ可測な関数になっている。
まとめ(2に続く)
大体の目安文字数がきたので止めます。
ここまででルベーグ積分の何となくのモチベーションが分かったでしょうか?それでも何故導入したのか(何故面積を拡張したのか)は有用な定理を紹介するまでいまいち分からないと思いますが、「有用な定理を何故期待できるのか?」、そのような事を次の記事では書いていきたいと思います。
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