ゲンロンカフェ20211023.クイズ鼎談『クイズ思考の解体』出版記念


8時間40分のロング鼎談.再び.相変わらず長いなぁ.でも面白いから聞いてしまうけど.伊沢さんの話は冗長で,記憶が驚くほど鮮やか.だからこその,相変わらずの田村さんのありがたさ.外側にいる人としても,伊沢さんの理解者としても.そして,徳久さんの距離感の絶妙さ.クイズをやろうという気持ちにはならないし,本を買おうとも思わないけど,クイズというのは文化として面白いんだろうなあとは思う.

因みに,クイズをやろうと思わないのは,まずは,相応の時間的投資が必要であろう(それは素晴らしいプレイをするクイズプレイヤーへの敬意の裏返しである)のと,記憶力がかなり低めな自分には向いていないだろうなと思うからである.クイズを自分でやってみないとわからないことも多々あるだろうが,それはなんにでも言えることで.やらなくても,観て楽しむ,があってもいいだろうし,分野への少々の理解をもち裾野を拡げる,という立ち位置もあってもいいだろう.

田村さんは「僕にはクイズの本を書く資格がない」と言うけれど,彼こそ書いてもいいんじゃないかと思う.中にいる人達は,自分とは違う中の人を沢山知っているだけに,伊沢さんみたいな特殊な立場にいる人以外は各論,「私のクイズ観」を書くことを躊躇ってしまう気がする.今回だって,田村さんがいなかったら,我々外野に伝わるものははるかに少なかったろうと思う.そういう媒介者の役割.とは言えそれは大仕事になってしまうだろうから,何らかの覚悟が必要にはなるだろうけれど.本業もあるだろうし.

単純に疲れていただけかもしれないし,年をとったからなのかもしれないけど,前回よりも伊沢さんは何かがふっきれているように見えた.そうなれたのがもし,本を上梓したからなのだとすれば,自分の力で一段また階段を昇ったのかもしれないと思う.やりきって一つの成果を形として残す.かっこいいなあ.
ストイックなクイズ至上主義.すさまじいクイズとクイズ業界に対する愛情とエネルギー.背負う覚悟.楽しむ覚悟.

翻って自分の仕事のことを考える.伊沢さんほどのエネルギーはとてもないけど,でも業界を広げていく,お世話になった業界に恩返しをしていく,ということは考える.自分の特殊な立ち位置についても.歴史を語る難しさもとてもよくわかる.自分の業界も,各人がプレイヤーになってしまっているので,自分の仕事については話せても業界の全体像を語るのは躊躇ってしまいがちだ.(とは言えクイズ業界に比べれば恵まれている気がするけれど.)でもそれは,業界が広がっていくことにはつながらないだろうと思う.
伊沢さんの能力の中での強みの一つは客観視と分析.(一番の「強み」は,クイズ(界)への愛情とエネルギーと誠実さだとは思うけれども).それが自分は少々苦手だけれど,考えなくちゃ.話を聞いていると,伊沢さんは今は,すごく誠実でいい人で,かついいリーダーにしか見えないけれど,大学時代のサークルでの人間関係とか,高校時代の葛藤とか,今の画面越しにはわからない,乗越えてきたものがあったんだろう.その時代も当然知っていて,それでも信頼関係を維持している田村さん(ら)の存在.伊沢さんには仲間がいることを羨ましく思ったりもするけれど,それは積み上げてきたものの結果なんだろう.自分も今からだって何かできる筈.

「推し」というのはそういう日常への力をくれるもの.生きて頑張ってくれていることが,ありがたいなあ.


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