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古典文学お手軽読本その20 とはずがたり編

はじめに


 『とはずがたり』は、鎌倉時代に、後深草院の愛人であった二条と呼ばれる女性の記録文です。男性遍歴の記録と言うべきでしょうか。このような記録がしっかり残っていたというのは、まさに奇跡ですよね。後半は、日本各地を回った紀行文となっています。

1.現代語訳


◎『現代語訳 とわずがたり』
 瀬戸内晴美:訳 新潮社 新潮文庫
(後半の紀行文は省略してあります。出家する前の作家瀬戸内さんが、原文に沿って、生々しく現代語訳しています。)

◎『とはずがたり』
 佐々木和歌子:訳 光文社 光文社古典新訳文庫
(後半の紀行文も含めて、現存する原文をしっかりと訳しています。ただし、現存する唯一の写本は、なぜか途中残っていない巻があったり、文章が途中で切れている所があったり、刀で切り取られている部分があったりして、原本の文章がすべて残っているわけではないようです。
 他の本では、後半の部分を省略していることが多いのですが、紀行文の部分もじっくり読んでみると、鎌倉時代の日本の様子が分かっていいと思いました。
 文章の中には、衣装の色とか装束の説明が長々と書かれているところがあるのですが、色の見本とか装束の説明の図が付録としてついているので、文章の内容が色鮮やかに想像できて良いですね。
 訳者の人も書いているのですが、武士の台頭により京都は戦乱に巻き込まれたり、平氏の福原遷都により荒廃したり、貴族自身も荘園などを奪われて没落をしたりして、平安時代の多くの文化がこの後の時代にどんどん失われていきました。そんな貴族文化の最後の灯火のように、華やかな貴族の文化が文章として残されているのがこの本の最大の特徴だと思います。
 作者の、二条さんもそんな華やかな文化を書き残したい、そんな想いで文章を書き、その想いが奇跡的に写本として残されたのではと思いました。)

2.小説


◎『中世炎上』
 瀬戸内晴美:著 新潮社 新潮文庫
(「とわずがたり」を基にして、瀬戸内さんが色々空想をして書いた小説です。当時の皇族や貴族の好色さがよく書けています。子供向けの本では無いです。)

◎『新 とはずがたり』
 杉本苑子:著 講談社 講談社文庫
(この小説は、原作者の後深草院二条の視点ではなく、その愛人?であった西園寺実兼の視点で書かれている小説です。ですから、原作のような色っぽい話はほとんどありません。この時代に起きた元寇の時、武家の人たちは国を守ろうと、必死で戦っているにもかかわらず、公家の方は神仏に祈祷をお願いするだけで、武家の人々に援助をしたり、報酬を与えるわけでも無かった。そもそも、そんな国家の危機があったことすら知らない人が多かったとか。南北朝の対立の原因である「大覚寺統」と「持明院統」の成立の原因とか。一遍上人の話とか。日本史で出てくるけど詳しい話は分からないところも、分かる内容になっています。鎌倉時代の時代背景が公家の視点から分かる素晴らしい小説です。鎌倉時代をもっと詳しく知りたい人には、是非読んで欲しい本です。)

3.漫画


◎『とはずがたり』 マンガ日本の古典13
 いがらしゆみこ:著 中央公論新社 中公文庫
(まあ、可も無く不可も無く、原作に従ってしっかり漫画化しています。後半の紀行文の所はかなり端折っています。)

扉の写真
 JR藤沢駅北口にある、マンホールの蓋。このゆるキャラの名前は何でしょう? 


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