[書評]『幻のアフリカ納豆を追え!』高野秀行(2020)新潮社

本書は、ノンフィクション作家の高野秀行氏によるもので、筆者が世界各国を回り出会った納豆についての調理法や歴史的背景を探り、ひいては全世界の納豆に共通する理論をも導こうとするものだ。
例えばセネガル。元々は一部地域でしか作られていなかった納豆だったが、1960年代の独立後、各地から若者が都心部へ集まると共に、市場に納豆がおかれるようになった。また、フランスの統治下になり米が大量に輸入されたことも納豆料理を加速させていった。ちなみにアフリカでは主に納豆にパルキアというマメを使い、ペースト状や乾燥させて板状にしたものを出汁として使う。味噌や醤油が浸透している日本人にとっては馴染みの無い発想だ。
国によって納豆の材料や納豆菌の発生の仕方が異なるが、ねばねばした豆が市井の人々のソウルフードとなっていることは共通しており、自国のものがオリジナルで誇らしいと思う「手前納豆」の発想や、一方でわざわざ客前では出さないといった考えまで世界中で一致しているのは興味深い。
また筆者の仮説に、普遍的に納豆の起源が肉や魚の乏しい内陸部の辺境にあるというものもある。これは大胆ではあるものの、筆者が認めるように証明するには本書では不十分だろう。ただ同時にこのような大胆な仮説を重ねたことで世界の納豆という未だ誰も総括したことのない食文化を体系化できたと思う。
近年アフリカでは人工調味料の台頭が著しいが、味の素は現地の納豆を用いた新たな調味料を商品化し現地で発売したという。食に関するビジネスにおいても、ハイブリッドな発想が成長を促すことも、本書を通じて学んだ。(M)

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