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『アメリカ大統領選』/久保文明、金成隆一(岩波新書)

アメリカにおける民主主義の規範の崩壊は、トランプによって始められたものではない。このプロセスを突き動かしてきたのは、90年代頃から加速した二大政党の分極化である。かつて文化的・人口統計学的に似通っていた民主・共和両党の支持層は公民権運動後の南部の白人の民主から共和への「大移動」と新たに選挙権を得たアフリカ系の民主党員化、大量移民時代の到来による移民とその子孫の大半の民主党員化、さらにはレーガン政権期以降のエバンジェリカル(原理主義)キリスト教徒の共和党への圧倒的支持、という三つの根因の結果、個人のバックグラウンドやアイデンティティに基づいて分極化していき、それに伴って次第に民主・共和の二大政党は「誰の利益を代弁しているか」という点において真っ向から対峙するようになった。両党やその支持者は相手の政党を”another party”というよりもむしろ「敵」や「脅威」とみるようになってしまい、それが相手を阻止するために手段を選ばない政治的風潮へと繋がっていくことで、民主主義の規範は破壊されていったのである。まさに現在開催されているアメリカ大統領選に関して、その歴史や特徴、プロセスなどから知ることができ、さらに、要所要所で日本との比較を交えながらアメリカの政治制度、官僚制度についての説明も詳しくなされていて、非常に有用な(インスタント版)アメリカ政治の教科書になっている。後半のテーマとしては「アメリカ社会の二極化」が大きく取り上げられていて、移民問題やトランプ大統領の当選、人種差別問題などで激動する同国内での国民の政治的イデオロギーの分極化の促進について詳説されている。アメリカにおける「保守派」と「リベラル」の立場や意見についても改めて見識を深められ、実際の政策動向の検討をより豊かに行う視座を与えてもらったと思う。(P)

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