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フリーランスなら必ず知っておきたい! インボイス制度が始まると、つまり何がどうなる?

インボイスという言葉を、最近よく耳にするけど、いったい何が変わるのか分からず不安に感じていませんか? 

昨年11月にフリーランス協会が主催したウェビナー「インボイスとやらが話題ですが、何をどうしたらいいのか教えてください!」にも、1,000名近くの参加登録者があり、インボイス制度への関心の高さと共に、みんなどうしたらいいのか困っていることが分かりました。

そこで、今回はウェビナーの内容も踏まえながら、さまざまな疑問がうずまくインボイス制度について、財務省主税局の佐々木辰実さんに、今おさえておきたいインボイスの基本知識を解説いただきます。

インボイスを理解するには、「消費税の仕組み」を理解しよう

私たちは普段の生活では消費者として消費税を支払っていますが、インボイスを理解するには、事業者として消費税をとらえる必要があります。

また、インボイスの正式名は「適格請求書」と言い、取引相手に請求書を発行する金額のうち消費税額はいくらなのか、またその消費税率は8%なのか、10%なのかが明記されたものを指しています。

まずは、消費税の仕組みについてみてみましょう。

出版物を例にして考えてみます。
本体価格1,000円の本を販売するとき、消費者は消費税を含めて1,100円を支払います。
仮に、1000部が売れたとすれば、1,100円×1,000部=110万円が小売店である書店の売上になります。
そして、この本を買われた消費者の方々が負担した消費税相当額は全部で10万円です。

では、消費者が負担した10万円分の消費税は、どのように税務署・国庫に納められると思いますか? 
「書店が、消費者が支払った消費税の10万円を全て納税する」と思われる方もいますが、実はこれは間違いです。

ライター、デザイナー、出版社、取次、書店など、その本の流通に関わった事業者すべてが、少しずつ分担して消費税を納めることになっています。

簡単にイメージをしていただくために、下図のような取引の流れを見ていきます。

(出典:財務省作成資料)

上の図では、1つの本が作られ、消費者の手に渡るまでに、「①文字起こしの事業者」、「②ライター」、「③出版社」、「④書店(本屋)」の4つの事業者が携わっていることが分かります。それぞれの事業者は仕事の対価を売上として受け取っており、その売上には消費税が含まれています。

「②ライター」は、原稿の報酬として22万円を受け取っています。したがって、ライターの売上げに対する消費税額は2万円になります。ただ、彼は原稿を執筆するにあたり、取材音源の文字おこしを「①文字起こしの事業者」へ外注しており、報酬の5万円と消費税の5,000円、合計5万5,000円を支払っています。
ですから、「②ライター」は22万円の売上に含まれる消費税の2万円分から、「①文字起こしの事業者」に支払った5,000円の消費税を引くことができ、納税する消費税は1万5000円(=2万円-5000円)となります。

同じように、出版社は1,000部の本を出荷して80万円を売り上げました。売上げに対する消費税は8万円ですが、ライターに原稿料20万円と消費税2万円、合計22万円を支払っています。よって出版社が納税する消費税額は、8万円から2万円を差し引いた6万円となります。

このように、売上に対する消費税から仕入れで支払った消費税を差し引いたものが、事業者が納税する消費税額になります。
こうして、それぞれの事業者が納める消費税額を合計すると、先ほど1,100円の本が1,000部売れたときに、消費者が支払った10万円と原則として同額になる、という仕組みです。

ですから、もし、「取引先からもらう報酬に消費税は上乗せされていませんけど?」という人がいたら要注意です。
たとえ、明細には消費税の項目が記載されていなかったとしても、支払金額を基に計算した消費税分を取引先は差し引いていますので、内税扱いになっているだけと考えられます。つまり、消費税分を値下げされている可能性があると認識するべきです。「これまで税抜価格での交渉に応じてもらえなかった」という方がいれば、相手方の法令違反の可能性も考えられるため、行政機関に相談窓口(公正取引委員会:消費税の転嫁拒否等の行為等に係る相談・違反情報の受付窓口)がありますので、相談してみるのもよいでしょう。

インボイスのポイントは「仕入税額控除」のルールが変更されること

先ほど、「②ライター」の売上げに対する消費税額の2万円から、外注先に支払った5,000円の消費税を引いて、消費税を1万5,000円(=2万円-5,000円)納税する例を挙げました。

この例のように、売上げに対する消費税から仕入れで支払った消費税を引き算することを、「仕入税額控除」といいます。普通は「仕入れ」というとモノを買ってくることをイメージしがちですが、それだけではありません。消費税はあらゆるモノの売買やサービスの提供などに課されるので、モノを買う場合だけでなく、金銭を出してモノを借りたり、サービスを受けたりした際に支払う消費税すべてが、「仕入れで支払った消費税」になります。
インボイス制度が必要になった背景には、この仕入税額控除のルール変更が大きく影響しています。

なぜルールが変わるのでしょう。
それは、軽減税率が導入されたことで、仕入れの際に払われた消費税の税率が8%なのか、10%なのかについて、売った側と買った側での処理を正確に一致させる必要が生じたからです。

ルールを変えなければ、「売った側は売上げの消費税を8%で申告しているのに、仕入れた側が仕入れの消費税を10%にして申告している」といった誤りや不正が発生しかねません。

インボイス制度開始後は、仕入れた側が仕入税額控除を受けるために、正確に税率と税額が記載された請求書を保管することが必要になります。
この請求書が、インボイス(適格請求書)なのです。
売上げた側(受注者)は仕入れた側(発注者)にインボイスを発行します。仕入れ側がその情報をもとに、自身の売上げ分の消費税から仕入れ分の消費税を引きます。
令和5年10月から開始するインボイス制度とは、このように請求書に税率と税額を正確に書くことを求める制度のことであり、こうしたインボイスを発行するためには、インボイス発行事業者として登録を行い、「登録番号」を入手する必要があります。

ここで問題となるのが、消費税を納税している「課税事業者」でなければインボイス発行事業者の登録ができない、ということです。

消費税は、2年前の売上げが1,000万円未満の事業者は「免税事業者」として納税義務が免除されますが、免税事業者は課税事業者を選択しないとインボイス発行事業者になれないということです。
フリーランスにはそうした売上げ1,000万円未満の免税事業者も少なくないと思います。

現在、免税事業者のフリーランスの方々が抱く懸念点は「取引先から見たら『控除できない消費税分』が、課税事業者と比べて割高だと感じられてしまうのではないか」という点です。

具体的な例をもとに解説しましょう。

さきほどの「③出版社」は「②ライター」への報酬で22万円を支払った例を思い出してください。そのうち消費税分の2万円は出版社が納める税金から引き算することができました。ところが、インボイス制度が始まると、このライターがインボイスを発行できない免税事業者の場合、出版社は消費税2万円を引き算することはできません。つまりこれまで通りの価格で発注すると、発注側にとっては10%の値上げと実質同じになるわけです。

発注者側からすると、相手がインボイスを出せる人か出せない人かによって、発注価格の受け止めが変わりますので、シンプルに言えば、インボイス発行事業者に支払う22万円と免税事業者に支払う20万円が同じ意味合いになるのです。
この場合、受注側からすれば、免税事業者は消費税をおさめる必要がないので、どちらの場合でも手元に残るのは20万円になります。

インボイスへのモヤモヤはどう考えたらいいですか?!

インボイス制度への不安としてよく聞かれるのが、「免税事業者には仕事がこなくなるのでは?」「免税事業者はこれまでより単価を引き下げられるのでは?」といったものです。

これらの不安に対して、どのように考えたらよいでしょうか。

【不安①】免税事業者には仕事がこなくなるのでは?

ここで重要なのは、発注者側の視点で考えることです。発注者側が仮に「課税事業者にしか発注しない」と決めてしまうと、「受注してくれる人がいない」、「見つけられない」といったリスクを負うことになります。また、課税事業者を新たに探す求人コストも必要になります。したがって免税事業者だからといって、仕事がなくなると一概には言えないでしょう。
また、発注者側にとっては、「免税事業者か課税事業者か」ではなく、仕事のクオリティの方が重視されることの方が多いかと思います。また、フードデリバリーや他の副業のような「サクッと働いてもらう」ことが重要な業種の場合も同様です。発注側も「課税事業者にしか仕事をお願いしない」という考えに切り替えた結果、デリバリーしてくれる人が集まらなかったら、事業に支障をきたしてしまいます。これでは、本末転倒ですよね。

実際、先日に私たちも参加させていただいた10万人規模のフリーランスに発注を行う仲介事業者との意見交換でも、「発注先となるフリーランスは免税事業者が多いことが見込まれるので、発注を課税事業者に限ることは考えていない」といった意見が出ました。
このような事例を踏まえれば、受注側がみんな免税事業者であっても、
・課税事業者と免税事業者が競合する形ではない業界
・人手不足の業界
・課税事業者(すなわち仕入税額控除が可能か否か)であるかよりも、重視される要素(サービスの質や独自性など)がある業界
などであれば、「免税事業者だから」という理由で仕事が来なくなるリスクはそれほど高くないとも考えられます。

【不安②】免税事業者のままでいると10%値引きされる?

免税事業者に発注した場合、「発注者は仕入税額控除ができないため、消費税分を本体価格に含めるような値下げを要求されるのではないか?」という不安な声も聞こえてきます。
まず、消費税の仕組みでは、インボイス制度への円滑な移行のために経過措置が設けられています。インボイス制度導入から3年間は、免税事業者からの仕入れも80%の控除が可能になっているのです。さらに令和8年からの3年間も50%の控除が可能となっており、段階的に移行するようになっています。

インボイスが始まったからといって、発注側が一方的に10%の値下げを断行してしまうと、発注側の企業にとっての法的リスクが発生します。下請取引に該当すれば、不当な値下げ要求は下請法違反になる可能性があります。政府としても、関連法例に基づき適切に対応する方針です。

この点については、フリーランス協会からも、「インボイス制度導入に伴うフリーランスへの影響や不利益に配慮してほしい」と要請をいただいています。ですから、国としても、発注者や仲介事業者などが所属する業界団体に向けて、「関連法令を遵守してください」と要請しているところです。

仮に発注者が受注者へ価格の引き下げを求めてきたとしましょう。そこには別のリスクが浮上してくると考えられます。「これ以上単価が下がるなら、もう取引をしない」と多くの受注者がそっぽを向いてしまうことです。すると、発注者の風評が悪くなり、仕事を受けてもらえなくなる可能性にもつながります。発注側はこうしたリスクを気にしながら穏当な対応を探ることになるでしょう。 

【不安③】 課税事業者になったら消費税の納税で、実質10%の減収ですよね…

課税事業者となったからといって、収入の10%全額を消費税として納めなければいけないわけではありません。先にも説明したように、仕入れの際に支払った消費税は控除することが可能だからです。たとえば、「売上がほとんどなかったけれど、仕入がかさんでしまった」という場合には、仕入れに対する消費税の方が多くなります。つまり、申告すれば消費税が還付されます。
また、「簡易課税制度」というものがあり、業種によって決められた率を控除することができます。例えば、サービス業なら50%を控除できます。
さらに納税した消費税は「租税公課」として必要経費となるため、所得税の納税額が減る場合もありますので、単純に売上の消費税の全てを納めたり、負担したりということにはなりません。

【不安④】 課税事業者になったら消費税の事務が大変になるのでは・・・

「課税事業者になると、消費税の事務負担が増えるのでは?」という声も多く聞こえる不安ですが、先ほど申し上げた「簡易課税制度」は、「仕入の管理の事務が大変」といった人への配慮として設けられた制度なのです。
この制度の適用を受ける売上高5,000万円以下の中小事業者は、消費税の納税額を計算する際に必要な仕入や経費の金額の集計なども不要となります。「税の処理が大変」と心配される方の中には、所得税等で「支払った経費の集計が大変」と思われている方も多いかと思います。しかし消費税には、上記のような特例があるのです。また、売上げの際に使っている請求書なども、Web等で「インボイス 請求書 フォーマット」と検索すれば出てくる無料フォーマットを使えます。ですから、なるべく今のやり方と変わらないような方法で対応いただきたいと思います。

ウワサだけに惑わされず、冷静に判断を

「課税事業者になるべきか、免税事業者のままでいるほうがいいか」
この質問に対する答えは、「どんな働き方をしたいか、どんな事業内容か」によって変わります。
法人化をめざして、様々な取引先を開拓して事業を拡大していくなら課税事業者になった方がよいかもしれませんし、副業系・すきまワーカーであれば課税事業者になるメリットはあまりないでしょう。また、スキルに独自性があり競合事業者が少なければ、免税事業者のままでも値下げや受注減などは起こりにくく、免税事業者のままでも問題ないケースも多いと考えられます。
「インボイスが始まるとフリーランスの仕事は減るらしい!」といった不安だけに触れているウワサに立ち止まらず、冷静に「何をした方がよいか」、「何をしなくてもよいか」を判断していくことが大切です。

教えてくれた人
佐々木辰実 氏
税務省主税局税制第二課 課長補佐。インボイス制度の担当として、数百回におよぶ説明会や多くの事業者との意見交換などを行いながら、制度の検討や広報活動を進めている。

ライター
浦上藍子 
出版社勤務を経て、2014年にフリーランスの編集・ライターとして独立。雑誌、ウェブでの記事制作、書籍のライティングなどを中心に活動しています。
趣味はフラメンコと韓国ドラマ鑑賞。

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