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4年前の点とスカンピ

ここ最近ほぼ毎日夕方に小一時間ほど散歩に出るのだが、Podcastを聞きながら散歩をするのが習慣になっている。主に英会話のPodcastで、いつも拝聴している番組は毎回あるテーマに沿って会話を展開していく形式で、その時その時に思いついたことなどを突発的に会話に入れ込んでいくので聞いていて面白い。そのテーマについて考えさせられることも多く、英会話に限らず学べる点が多いのも魅力のひとつだ。

昨晩いつものように散歩のお供として聞いていたのが”イギリスの食について”がテーマであった。イギリスの食事は美味しくない、と世界中で言われているが果たして実際はどうなのか、といった具合だ。

ここで出てきた ”Sunday Dinner”、これがオーストラリアを思い起させた。

思い起こせば4年前、私はワーホリでオーストラリアにいた。そしてその時住んでいたシェアハウスのオーナー(50歳くらいのおじさん)がまさにこの料理を作っていたのだ。内容は単純、かたまりの肉と芋や人参などの野菜をオーブンにぶち込み、1-2時間かけて焼き、グレイビーソースで食べる、それだけだ。

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当時食べた感想は「なんだこれ」だったが、このPodcastを聞いて「あれはSunday Dinner だったんだ!」と今になって点と点が繋がったのである。

オーストラリアはイギリスの領地であったため、イギリス文化が色濃く残っている(国旗もイギリスが入っているしね)。Sunday Dinner は元々教会で提供されていた食事で、教会には多くの人が訪れるため、あらかじめ食材をオーブンにさえ入れて放置しておけばほぼ完成というこのなんとも効率的な料理が生まれた。そしていつしか一般家庭で作られるようになり、日曜日に家族みんなが集まって食べるようになったらしい。なるほどガッテンしたのであった。

たしかに長時間焼いているだけあってお肉は柔らかく、芋はしっとりホクホクで美味しく頂いていた記憶がある。あの時は何気なく食べていたけれどこうしてルーツがわかると感慨深い。実はその後そのオーナーとひと悶着ありケンカして引っ越してしまったのだがおじさん元気にしてるかな。

そして同時期にフレンチレストランで働いていた時の話。キッチンで働いていたので時々まかないを作っていた。働いているスタッフは国籍人種多種多様、さすがオーストラリアである。イタリア人はピザを生地から仕込み、インド人はカレーなどみんなおのおの自国の料理を作ったりと、店にある材料は基本好きに使っていいという感じだったので、私も日本の料理を作ったりデザートを作ってみたりして色々楽しんでいた。

そんなある日の休日、市場に出かけるとムール貝と目が合ってしまった。ムール貝といえばパエリアじゃん?まかないでパエリアを作るしかない、そう決心した。むしろ自分が食べたかったから作りたかった。

次の日意気揚々とムール貝を手に職場へ向かい、仕事をしつつも主にまかないに力を入れ仕込みを進めていく。ふと「あ、そういやエビあるじゃん、入れたら最高じゃん」と思いつき、その日前菜セクションにいた韓国人の女の子に「それまかないに使うからちょっとちょうだい」と少しもらってパエリアにぶち込んだのだった。

そうして出来上がったパエリア、見た目はエビを入れたしムール貝も入っていて最高、味も上出来だ。みんなの反応も良く、ワイワイと笑顔で食べていて作った側としてとても満たされていた。

だが次の瞬間、オフィススタッフの誰かが「あれ、このエビってお店で出してるやつだよね?」とざわざわ…

ん?なんだなんだ?

その頃レストランで働いてはいたものの食材の詳しい価格は全然把握していなかった。実はそのエビ、高級品のスカンピだったらしい。確かにそのレストラン単価高めでデザート一皿 $20近くするような店だった。とっさにその場にいたシェフが「そのエビは自分で買ってきたんだよな?」と、うんと言わざるを得ない圧力で訊ねてきた。他のシェフからコッソリ事実を知らされ、「イ、イエス」とビビりながら答え、なんとかその場をしのいだのであった。機転をきかせてくれたシェフありがとう…。そして高い食材使ってごめんなさい…。

今思えばいちスタッフであるなら食材の価格やせめてメニューの価格は知っておけよと4年前の自分に喝を入れたいのだが、今となっては笑える思い出だし、店は忙しかったけれどいい人たちに恵まれていた。あの時圧力はかけられたけどシェフは面白い人で笑顔が絶えなかったし、他のスタッフも個性がそれぞれあって楽しい人達であった。機嫌を聞くと必ず「ファンタスティック!」と答える陽気なフランス人おじさんや、毎朝出勤前にジムに行くムキムキ笑顔でサッカー狂の超フレンドリーメキシコ人、1日に何回も「コーヒーは?」と聞いてくれたおしゃべり好き早口ベトナム人女の子(おかげで一日最低でも三杯は飲んでいたためコーヒーが好きになった)と、挙げればキリがないが、私の拙い英語でも優しく受け入れてくれたみんなに4年越しで改めて感謝したい。

今も働いている人は少ないだろうけど、落ち着いたらあのレストランに行ってみんなに会いに行こう。きっと変わらぬ笑顔で迎えてくれるはずだ。


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