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フレンチ・スタイルな旅先から、日本のインバウンド観光を考える

はじめに
 6月のヨーロッパ内国境閉鎖が解除されたその日、2週間のヨット・クルージングを予定していたフランス人友人カップルとともに車で南フランスから旅立つことになった。一緒に行くはずだったメンバーがキャンセルした空席が舞い込んだのだ。アルプルを通り、イタリア、スロベニア国境を越えて、クロアチアのスプリットへ。予約できるフライトがなかったため急遽ドライブすることになったのだが、地続きでどこまでも行けるヨーロッパ、大陸だったんだと改めて実感。
 そして毎日の風の具合を見ながら行き先を決めて、アドリア海の島々を巡った。風が止めばヨットをとめてひと泳ぎ、停泊した島々ではスクーターや徒歩で大自然や小さな村々を訪れる自由気ままな非日常にダイブし、まさにフランス的?なバカンスを満喫する機会に恵まれた。

フランスの人々に人気のバカンス先、クロアチア
 ちなみにクロアチアはこのところおしゃれなホテルやレストランなどが次々に出来てきて、フランス人に人気のおしゃれなバカンス先になっているのだという。物価はそんなに安くないけれど、まだまだ素朴さが残り、バカンス地としては後進ゆえの配慮のある観光開発がなされているような印象だ。
 フランス的文化とバカンスの関係は切っても切れない。夏のバカンスといえば少なくとも2週間、長ければ1ヶ月近くの長期休暇を取れる社会的な仕組みがある。社交の際には、どこでどんなバカンスを過ごすか、そして過ごしたか、は主たる話題の一つでもある。そうした背景があって、世界中いろんなところにケロっと旅に出るフランスの人々は、バカンスの達人であると言ってもいいだろう。彼らの旅のクオリティに対する視点は鋭い。


旅先ごはんは旅のクオリティのバロメーター
 今回はヨット・クルージングの島巡りだったので、必要に応じて行く先々のマルシェやスーパーで買い出しし、ランチは船で簡単にサラダやパスタ、入港したらアペリティフをして、ディナーは停泊先のレストランというパターンが多かった。旅先でスーパーやマルシェで買い物するのは楽しいし、日常をちょっとのぞくこともできる。いずれにせよ旅先の食事は、その土地を知るかなり重要なファクターである。
 停泊先のハーバーは、歴史的建造物を含む小さな街にあることもあれば、レストラン兼小さな商店が1軒のみの小さな入江に停泊、岸には小さいボートで向かうところなど、色々変化があって楽しかった。クロアチアのアドリア海沿岸地域は、かつてヴェネチア共和国だった時代もあり、建築にも食にもイタリアの影響が色濃い。ゆえにカフェは結構美味しい。そして沿岸の島々ゆえ、魚介が豊富。フランスではあまり食べないイカやタコのシンプルなフライやマリネ、獲れたて鮮魚のシンプルな炭火焼きがなかなかに美味しい。ワインは地元産のポシップという白ワインがお気に入りとなった。といったようなシンプルな食の充実具合も、人気の理由のひとつだと思われる。

そしてスズキの一皿から思ったこと
 旅程の最終日、ヨットを返却して帰路に向かう際に、夕日が美しいことで有名なザダルという海辺の街に一泊した。ローマ遺跡や中世以降の建物が残る、美しい街である。ゆえに名の知れた観光地でもあり、普段は観光客でいっぱいなのだそう。今回は国境封鎖解除の直後ということもあり、観光客は少ないはずと見込んで訪れたのだが、それでもある程度賑わっていた。
 ホテルの近くで夕食を摂ることになり、おすすめされた近くのレストランに行く。さすがに島の入江の素朴レストランなどに比べるとずっと都会的な雰囲気が演出されている。ローカルワインのポシップに、私はスズキのポレンタ添えをいただいた。プレゼンテーションも魚の焼き加減もほどほど良く、ほどほど美味しくて、文句をつけるところはないのだが、そこで気付いたのである。
 あまり感動がないのだ。島の入江のレストランの、飾りっ気のない炭火焼きのスズキは小骨もいっぱいついたまま、でもなんだかリアル感いっぱいの美味しさを感じたのにくらべ、ほどほどに体裁整ったこちらのスズキは、そうはいっても南仏の都会やパリのレストランほどソフィスティケイトされているわけでもない、中途半端さの方が目立ってしまった。ここでないどこかのような、没個性な感じだろうか。そこで思った。

その土地でこその日常が驚きと感動になる
 感動こそが心に残る旅をつくる。中途半端にスタンダードな観光開発は、かえってその土地本来の良さをかき消してしまう危険がある。その土地に本来固有のもの、その土地の日常の生活、そこでしかできないもてなしが他所から来た旅人にはホンモノ感ある新鮮な発見になる。忘れがちだけど、大事なことなんじゃないかと思う。

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