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リュベロンのエルブ・ド・プロヴァンス

 昨年から毎春手作りしている、ワイルドのエルブドプロヴァンスの話です。南仏プロヴァンス地方のなかでも、リュベロンの自然公園地域は、豊かな自然の中に昔ながらの石造りの村が点在する魅力的なエリア。それまでも時々訪れる場所ではあったのですが、縁あって昨年春のロックダウン期間数ヶ月をこの地で過ごすことになったのがきっかけです。

南仏プロヴァンスの春

 南仏プロヴァンスは年間300日は晴天という、太陽の土地である。ミストラルが吹いて気温は低くなることもあるが、日差しは明るい。オリーブ畑や、自然の中には西洋ウバメガシやツゲなど常緑樹も多いので、冬でも多少緑が残っているのだが、それでも春先の芽吹きの季節のウキウキ感と言ったらない。日々、朝起きる度に、外に出る度に、木の芽が育ち、花木や野草が次々にリレーするように花開く。近くの森や草原では誰にも会わずに歩くことができる、天国のような春だった。

タイム、ローズマリーが自生するガリッグの森と草原

 自宅に籠りテレワークする日々だったので、毎日近くの森や草原に歩きに出た。ローマ時代の荷馬車の車輪跡が残る岩肌がゴツゴツとした道を通り、原っぱを抜け、ウバメガシとツゲの森を抜けて、山の尾根に出る。森の中で見る、崩れて苔むした石積みに木々や草花が根を張る光景は、そのまま庭の風景のように、調和して美しい。マツ林の下には野生のローズマリーがこれでもかと繁茂しており、岩場や道沿い、そこかしこに自生のタイムがそこかしこに生えている。ローズマリーやタイムは、庭の植栽にもよく使われる、ハーブ初心者にも親しみやすいハーブだけれども、こんな風に自然の中にある姿にお目にかかれるのは新鮮だった。

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花盛りのタイムでつくる野生のエルブ・ド・プロヴァンス

 ところで、相方はこれまでも毎年このハーブを摘んで、エルブ・ド・プロヴァンスを仕込んでいた。秘伝のエルブ・ド・プロヴァンスの特徴は、花の咲いている時期のタイムを使うこと。青紫のタイムの花が入ると、全体が青みがかった美しい色合いの仕上がりになり、香りも大変良いのだ。エルブ・ド・プロヴァンスは市場や食料品店、スーパーでも売っているけど、このワイルドのブルーのエルブ・ド・プロヴァンスはどこにも売ってない。

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 タイムの花が咲き始めるのは4月の中旬〜下旬から。この時期はウォーキングの度にバスケットを持って、あちらの尾根に、こちらの谷間にとせっせとハーブを摘みに行く。花盛りのタイムは、近くでブンブン働いているハチを驚かせないように気をつけながら採取する。ちなみにローズマリーについては、花にはこだわらずに若くて葉っぱが柔らかそうな枝を選ぶ。

南仏の太陽と風と大地の恵みを食卓に

 こうして日々摘んできたタイムとローズマリーを自然乾燥した葉っぱと花をミックスして(配合は秘伝である)、自慢の自家製エルブ・ド・プロヴァンスが出来上がる。

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 自然の中でハーブを摘むのも、乾燥を待つ間も、葉っぱや花を外してミックスする作業もいつも良い香りがしていて、芯から癒されるようだ。出来上がったエルブ・ド・プロヴァンスは、保存ビンなどに入れて1年はもつ。そして、ラタトゥイユやティアン(野菜の重ねオーブン焼き)などの南仏っぽいメニューの他にも、トマトソースやポテトのオーブン焼き、鶏肉・豚肉や白身魚の風味付けにと、魔法の調味料のごとくキッチンで大活躍だ。
 そして、ブルーがかったエルブドプロヴァンスをパラパラっとする度に、ふわっと香りが立ち、このハーブたちを育てた春先の南仏プロヴァンスの太陽と風が思い浮かぶ。


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