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2022秋アニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」後藤ひとりの見た一番星

「ぼっち・ざ・ろっく!」は私にとって2022年最大のハマりアニメでした。
最初は視聴の予定がなかったのですが、放送中盤、コロナでの自宅療養を余儀なくされ、外出もできない状態で暇つぶしに一気見したのがきっかけでハマってしまい、結局最終回の放送までリアルタイムで追いかけることになりました。

そして、エンディングの余韻も覚めやらぬ時、何気なく見た以下のツイートが本記事のきっかけになりました。

「ぼっち・ざ・ろっく!」天文考証

下は月刊「星ナビ」という天文専門誌のツイートです。

さすが専門誌ならではの考察で、こういう楽しみ方もあるんだなあとまず感心したのですが、考証の条件として結束バンドの演奏曲「星座になれたら」の歌詞「一番星」「時計は6時」「ひとつしかない星」「何億光年離れたところ」を挙げておられ、もっとも整合性のある結論は、11月23日、下北沢から見た南の空に輝くみなみのうお座のフォーマルハウトじゃないか、というものでした。

南のひとつ星「フォーマルハウト」

歌手、今井美樹さんの有名曲「PRIDE」の冒頭、「♪南の一つ星を見上げて誓った」と歌われるみなみのうお座のフォーマルハウトですが、確かに秋の南天にはそこまで明るい恒星がなく、唯一といってもいいくらいに目立つ一等星です。

ただし、実際の秋の夕空では(年によって位置が変わりますが)木星や土星といったより明るい惑星が「一番星」となることが多く、フォーマルハウトとするには少し違和感があったのも事実です。

あ、ちなみに、良く言われる「一番星」という言葉に天文学的な定義があるわけではありません。ゆるーく「観測者が日暮れ時に最も早く見つけた星」というくらいのものです。ですから、観測する人の周囲にある建物や、観測する方角、観測地の雲のかかり具合などでけっこうばらつきます。北を向いている人と南を向いている人で「一番星」が違う、なんてことも別に変な話ではありません。

一般的には夕暮れ時に西の空でギラギラに輝き「宵の明星」の別名を持つ金星が一番星となることが多いのですが、季節によって見えない時期もありますから、これも特に固定されたものでもないのですね。

このあたりで私は、じゃあ、ぼっちちゃんこと後藤ひとりは、実際にどの星を目にして「星座になれたら」の歌詞のインスピレーションを得たのだろう、と思いました。楽曲上で歌われる「一番星」ではなく、ぼっちちゃんが実際に目撃し、歌の着想を得た「一番星」はどの星なんだろう、と思ったわけです。

最初に紹介した月刊「星ナビ」のツイートと同じ日付(2022年11月23日)で天文シミュレーションソフトを走らせると、当日最初に輝きはじめるのはやはり木星であることがわかりました。

2022年11月23日16時40分の空(周囲が地平線、中心が天頂)

日没直後の16時40分にはもう南東の空で輝きはじめており、その1時間後の17時40分ごろまで木星と土星以外の星は見えにくい状態です。
というわけで、まずは「ぼっちの一番星は喜多郁代木星じゃないか?」説が立ちます。

ぼっちが「一番星」を見たのは一体いつ?

ここでもう一つの疑問がわきました。実際にぼっちちゃんが一番星を目撃し、歌詞の着想を得たのは本当はいつなのだろうかという点です。

夏休みの台風ライブ(アニメでは8月14日とされています)の時点では最低三曲の楽曲が完成していることが虹夏のMCのセリフからわかっており、うち二曲は実際に演奏シーンのあった「ギターと孤独と青い惑星」「あのバンド」です。ラストの一曲は不明ですが、ぼっちらしい孤独感とネガティブさのにじむこの二曲の歌詞の傾向からみて、少なくとも「星座になれたら」ではなさそうです。(個人的には同じく屈折したイメージのある「青春コンプレックス」じゃないかと思いますが、確たる根拠はありません)

恐らく、「星座になれたら」は台風ライブで手応えをつかんでぼっちちゃんのなかでバンドに対する認識が改まり、そこから秀華祭までの期間に作られた楽曲なのでしょう。
ちなみに秀華祭は10月1日、2日であることが第9話の後半で示されていますので、実質一ヶ月半ですね。
結束バンドはおおむね一ヶ月に一曲の急ピッチで新曲を発表しています(驚異的!)から、「忘れてやらない」「星座になれたら」の最低二曲をこの期間に制作すること自体は不可能ではなさそうです。

ということで、ぼっちちゃんが一番星を見て着想を得たのは最長で8月14日〜10月1日の間のどこかだろう、ということになります。
星ナビさんの設定した条件(11月23日)では、ぼっちちゃんの見た星としては時期が少し遅すぎるのですね。

手がかりは配信用ジャケットにあり

少なくとも、アニメ各話中にぼっちちゃんが一番星を見上げる描写はありません(なかったよね)。しかし、手がかりがまったくないわけでもありません。
ここで私が注目したのは「星座になれたら」のジャケット及びリリックビデオのイラストです。

ここでは、喜多ちゃんが夕暮れの空を指さし、後ろに続いているであろう結束バンドメンバー(あるいはぼっちちゃん)に何かを語りかけています。
実はこの場所は京王井の頭線下北沢駅西口(南側)そばの踏切であることがわかっています。

喜多ちゃんは鎌倉通りを北向きに歩いており、指さしている方角も北側です。しかも、かなり高いところを指しています。
恐らく、この場所で〝前を歩く〟「喜多ちゃん」に〝彼女の頭上に輝く〟「一番星」を教えられて、その時の鮮烈な印象が歌詞の内容に大きく影響を与えたのでは、と想像できるわけです。

北の空に「一番星」はない

台風ライブから秀華祭までの期間で、18時前後に星が見え始めるのは、日没が次第に早まり17時台となる9月中旬以降となります。
また、歌詞を含む楽曲が完成してライブができるまでには当然ある程度練習が必要でしょうから、これを制作期間と練習期間合わせて10日間と見て、ぼっちちゃんが「一等星」を見た時期は、9月15日ごろ〜9月21日ごろまでの約一週間前後と考える事ができます。

かなり絞られてきましたので、この期間、18時を中心に、その前後10分程度の幅を見て北の空に一番星となり得る星が見えないか、シミュレーションソフトで検証してみましょう。

2022年9月18日18時10分の北の空(画面上が天頂、画面右が東、画面左が西)

ところが、困ったことに北の空には明るい星がないのです。
天頂近くにはこと座のベガがありますが、ほぼ真上なので条件から外れます。また、真西の空、いい高さにうしかい座のアークトゥルスがありますが、さすがに方位が違いすぎます。
検証はここで完全に行き詰まってしまいました。

夕空で輝くのは星だけではない

ここまでの考察のどこかが間違っていたのでしょうか?

アニメの演出なんだからつじつまが合わなくても……と思われる方もいらっしゃると思いますが、本作はオープニングからエンディングまでの時系列の構成などを含めかなり練り込まれた作品だということがわかっていますので、楽曲のジャケットみたいな重要なアイテムで適当な演出をしているとはどうしても思えないのです。

では、何か見落としていることはないでしょうか?
ということで、もう一度「星座になれたら」のイラストをじっくり見てみます。

「星座になれたら」配信用ジャケット (c)はまじあき/芳文社・アニプレックス

喜多ちゃんが指さしているのは確かに北の空、角度は思ったより高く40度から45度くらいでしょうか。
星を見つけ、後方にいる誰かに話しかけるため身体を右回りにひねっていますが、それで指さしの方向が東寄りにずれた可能性もないとは言い切れません。
だとすると、ワンチャン西の空のアークトゥルスが「一番星」だった可能性も出てきます。ただし、喜多ちゃんのすぐ西側には二階建てのアパートがありますので視界が遮られます。その確率はそれほど高くありません。

参考までに、一番星を見つけたであろう瞬間の喜多ちゃんの視界をストリートビューで再現するとこんな感じ。

うーん、もう一度。
今度は背景の端までじっくり見てみます。
思ったより空に雲が多く描かれ、空全体が完全に見渡せているわけではないみたいです。
だとすれば、雲の隙間からチラリと見えた飛行機が夕日を反射したのを見間違えたのでしょうか?

その時、頭にひらめく物がありました。
夜空に輝くのは何も星ばかりではないのです。

人工の星「国際宇宙ステーション」

ご存じの方も多いと思いますが、地球の地表から100キロメートルより上の宇宙空間にはおびただしい数の人工衛星が周回しています。
そして、これらは条件が整えば肉眼で観測することができます。つまり、地上は日が暮れているが、はるか上空を周回する人工衛星にはまだ夕日(あるいは朝日)が当たっている場合です。

そして、地球を周回する人工衛星のうち最大の物は、ご存じ「国際宇宙ステーション」(ISS)です。
もう一度、今度は人工天体も含めてシミュレーションを走らせてみましょう。

2022年9月18日18時11分の北の空(画面上が天頂、画面右が東、画面左が西)

出ました!
マイナス三等級といいますから、ほぼ宵の明星(金星)と同じくらいのまばゆい明るさで国際宇宙ステーション(ISS)が輝いているではないですか!。
しかも、方角、高度ともバッチリ条件に合致します。

ISSは人工衛星なので、飛行機ほど速くはありませんがよく見ると動いているのがわかります。
ですが、ジャケットイラストのような雲が多めの条件では、動いているのがはっきりわかるほど長い時間見えていたとは思えません。恐らく、雲間からのぞいた明るい星を見つけて、「ほら、後藤さん、一番星!」とか何とか言って、ぼっちちゃんが視線を向けて間もなく雲間に隠れた……と想像すると、どうでしょうか。

むすび

というわけで、妄想力全開でここまで考証してきましたがいかがだったでしたでしょうか?
本作は楽曲に対する力の入れ方がすばらしく、また演奏シーンのアニメーションはとてもリアルでした。
さらに番組終了後に発売された「結束バンド」のアルバムが世界規模で勢いのあるセールスを記録するなど、もしかしたら「結束バンド」は実在するのでは……などと感じずにはいられません。

二期は確実そうですが、実現するまでには最低でも二年以上の時間が必要と言われています。妄想考証で気持ちをまぎらせつつ、少し成長した後藤ひとりとの再会を楽しみに待ちたいと思います。

なお、本記事を制作するにあたって、今田ずんばあらず、旅する小説家様の記事「アニメぼっち・ざ・ろっく!後藤ひとりが結束バンドに加入したのは何月何日かを考察する。」及び「アニメぼっち・ざ・ろっく!第8話ライブでカットされた「第3の曲」の正体とは?」を参考にさせていただきました。ありがとうございました。

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