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近年の景品表示法改正内容から、課題点を考える


改正事項から見えてくる課題点

2023年5月に可決され、2024年に景品表示法の改正が施行されます。
そこで、このブログのテーマでもある“表現の自由”と“消費者の知る権利”において、何が問題なのかを解説します。
消費者庁が掲げている景品表示改正法の大きな目的は3つです。

  1. 事業者の自主的な取組みの促進

  2. 違反行為に対する抑止力の強化

  3. 円滑な法執行の実現に向けた各規定の整備等

改正の順番を見ると「自主的な取り組み」とありますが、いざ改正内容の対照表(以下リンク参照)を見てみると、2の抑止力の強化と3の規定の整備が大きな論点となっています。
1の自主的な取り組みについては、迅速に問題を改善していくと表記していますが、これは「過ちがあればメーカー側がすぐに認めて改善するための仕組み」という意味で、このブログのテーマでもある「表現のガイドラインを決めよう」という意味ではまったくないことがわかります。
前回からも記載していますが、「注意後の取り組みではなく、販売側が自分たちで改めることが全くできない(ガイドラインが存在しない)」ことが問題点であるにも関わらずこの点を法律上は改善する気がないとも言えます。事業者の自主的な取り組みの促進は、民間側から考えれば、法を順守するための整備を行って欲しいのにそこは行われてないからです。

参考資料:健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について(新旧対照表)

https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/extravagant_advertisement/assets/representation_cms214_221205_02.pdf

具体事例を出すことでの問題

次に、改正の内容についてです。
今回の改正においては注視すべきは「具体的な文言の事例」が追加されている点にあります。これは、現在整備が進んでいる機能性表示食品制度が今後どうなるかを踏まえているのかの記載がなく追加されていることもあり、、このままでは何が正しいのか分からなくなり、言葉狩りが起こる恐れがあると考えています。

具体事例を一つ取り上げますと、「腸活」という部分の表現が問題、と明確に書いています。これは、腸をしっかりサポートする機能性表示食品がある場合は問題ありません。ですが、ここでは届けを出していない場合としての具体例が書かれています。
そのため、機能性がある場合には腸活という表現はNGかOKか分からない状態なのです。法律を読めば理解できるということは理解できますが、今回の件により、表現をチェックする団体の中でもチェックの見解が割れているというのが現状です。つまり、完全に今回の改正によって民間は混乱しており、言葉狩りを促す結果になっていると言わざるを得ません。

間違っても、私は「法律の改正内容のすべて」が悪いと考えているわけではありません。法律の表現の仕方によって、法律の趣旨としての行き過ぎた表現が悪いということよりも、具体事例を示したことによって、法規制をする側の指導がしやすくなったかもしれませんが、一方で、表現の自由という観点は著しく妨げられたということです。

指針が示されないままの開示請求

次に、合理的根拠の資料を消費者団体が開示要請できる部分が追加されています。これに関しては、中長期では法改正として良い可能性が高いと思っています。
その一方で大きな問題点として、合理的根拠の指針が消費者庁から示されていない点が挙げられます。

消費者庁という指導側からのガイドラインが存在しないまま、開示だけをさせる権限を強化することは、指導を透明化するというより、不当に指導を強化する方法、及び論拠のないまま公開させ叩くということが可能担ってしまいます。

合理的根拠の開示に関しは、民間が苦労して研究したものを、開示しなくてはいけないという可能性もあり、一方的であればあるほど、「どの論拠を出すべきか?」ということがわからなくなってしまいます。
つまり、研究開発の独自性を妨げるケースも出てしまいます。守りたい知財しっかり守り、開示すべきものをしっかりと開示してもらうためにもガイドラインは必要なのです。

やはり、どの論点においても、「表現の自由」や「研究の独自性」という発明を守っていく意味では、重要なポイントとなるのは、ガイドラインの制定が必要ということです。合理的根拠においてもガイドライン制定が曖昧なので、開示部分だけを許可すると、合理的根拠かどうか曖昧なデータをどこまで出せるか分からなくなってくるのです。

これまでの消費者団体の動きに関しても、提示されたデータをそのまま一般公開することもあります。
消費者庁は、これまでデータに関してすべてを開示することはありませんが、民間の適格消費者団体においては、開示請求におけるやり取りの中で機密事項を取得した場合にしっかりと情報を保護してもらえるのかしっかり記載されていないため、開示要請などの権限強化だけでいいのだろうか?というのが疑問です。
(本来的には公開すべき「合理的根拠」あることは筆者も理解しつつ合理的根拠のガイドラインがないため、際限なく開示要請ができる可能性を残していることを指摘しています)

ガイドラインがないことで恣意的な判断へ繋がる恐れも

そして、前回のブログでも記載した部分ですが、誤認させる表示の部分のガイドラインがないこと、があります。とりわけ、故意要件がないことです。

そして、「合理的根拠のガイドライン」、「誤認表示のガイドライン」、この2つがないことで問題が生まれます。
合理的かどうか?誤認させるかどうか?
この判断の主体が曖昧となってくるため、すべてが恣意的に行える環境になってしまい、それによって民間が萎縮しやすい環境が存在してしまうことです。

ガイドラインの曖昧さ、に加えて、故意の要件も曖昧であるとなると、指導はいかなる方法でも行えてしまいます。

自動車の運転に例えるなら、
制限速度が50kmの道ではその速度を超えてはいけないというガイドラインが存在しています。これに、今回の状況を当てはめてみると、制限速度表示がどこにも書いていない道だったので60kmで走行していたら、「40km制限にします」と言われる感覚です。

ガイドラインがしっかりある環境において表示を的確にすることは、広告に携わる身としては賛成です。しかし、現状のままではただ怯えてしまう状況が生れかねません。表現の幅や自由が担保されているのかを、指導する側以外は誰もわからない状態になってくるということです。

改正により混乱が増える懸念がある

近年、民間や法律家が運営する法的な表現チェックの機関においても方針には相当バラつきが出ています。

つまり、この誤認させる表現や表示の解釈が人によって違うためチェックに大きな影響を及ぼし、誰も答えがわからない状態になっているということです。

民間やメーカー側に混乱が起きつつある状況の中でガイドラインが出されないということは、表現においても自主規制がかなり強くなります。現実的に、筆者が携わっている中でも、状況において各所に配慮した文章になっています。そのくらいは仕方ないとすべきか各々の判断によりますが、法律が曖昧だから混乱が起きていることは否めません。

今回は、改正される商品表示法が改正の意図がかなり恣意的なものになっており、より混乱が起こりやすくなっているという部分を説明させていただきました。

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