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【映画批評】DAU.ナターシャ


こいつはたまげた。

こいつはすげえぜ。

※過去記事の復旧です。表現修正版

何が凄いって、ウクライナのハリコフに仮想のソ連研究所を建設し、そこに400人の主要キャストと1マンのエキストラを約2年にわたって生活させ、そこで撮れた映像を映画にしたことではない。

なんとびっくりなことに、これの続編?というか関連作があと16個もあるということである!

凄すぎ。なぜそこまでする笑

とんでもない予算をかけてソ連の巨大研究所(というか一つの街)を建設し、万に及ぶ製作スタッフを実際にそこで働かせて2年も養い、んで撮れた映像が元KGBスタッフによる拷問シーンがひとつだけ!(それが今回のこのナターシャだ。関連作はあと16あるらしいが嘘かもしれない)

凄すぎて言葉もない。ほんと、言葉を失う。何やってんだこいつら。壮絶な無駄。しかし、理屈とは裏腹に心は踊っている。ウキウキだ。よくもこんな真似しでかしたもんだ。どういうアレなんだほんと。

大抵の人間はこの映画のためにそんな時間を割いてバックグラウンドを調べあげたりはしないはずなんで、この映画の驚くべき箇所を簡単に説明する。

・この映画の出演者はごく一部の人を除いて素人。役者ですらない。普通のサラリーマンだったり、主婦だったり、科学者だったり。

・台本とかはなく、ソビエト連邦を再現するという、大雑把な設定があるのみで、演技はほぼ出演者たちのアドリブ。

・監督はアレクセイ・ゲルマン(オヤジのほう)の影響を受けているらしく、基本的には群像劇で、固定カメラの長回し。登場人物は皆異常にハイテンションで、お行儀悪く汚く飯食って酒飲んでるシーンばかりがフィーチャーされる。

・フxxxのシーンは本当に××しており、酒飲んでるシーンは本当に飲んでおり、酔っ払ってるシーンは本当にマジに泥酔しているそうである(ホドロフスキーのようなデタラメではない)。その酔っ払い加減さえも台本はなく、監督も「彼女がこんなに酔っ払うと思わなかったよ〜。。」なんてそんなことを言ってたらしい。(ちなみに××も本物だと思う。きったね〜。。)

・主人公ナターシャの同僚のオーリャ(Olga Shkabarnya)はどうやらマジモンのウクライナの×××女優のようでググったらジイさんが腰抜かしてあの世に逝っちまいそうな画像や映像が山ほど出てくる。(ググらないことをお勧めする) なお、この点について情報は何も見つからず、ただそうであるらしいということしかわからない(ちょっとそれが俺は怖い)。

現在はクライミングジムでインストラクターをやっているらしく、そのクライマーらしいスタイルの良さだけはマジモンである。(ワタシもいちクライマーであるためインスタフォローしました)

・KGBの尋問官アジッポは本当に元KGB大佐で、ソ連の刑務所や拘置所で似たような仕事を本当にしていたとのことである。(映画には本物の迫力が漲っている)

・ちなみにアジッポは尋問シーンで本当はナターシャの服を無理やり引き裂く筈だったのだが、土壇場でそれを躊躇い、服を脱ぐよう命令するという形となった。ナターシャ役の女性(因みに女優ではなく本業は営業マン)は、アジッポがビビってるのを感じてカメラに背を向けた際に笑ってしまったのだという。

・あまりにも拷問シーンが生々しく非人道的なので、ベルリン国際映画祭の際には世界中のジャーナリストから批判が集まり、監督への人格攻撃が行われたそうであるが、ナターシャ役の女性をはじめ、この映画の出演を後悔しているキャストは殆どいないのだという。

・「DAU.退行」という名の続編は6時間9分もあり、なんと日本公開が普通に実現している。休憩はたったの15分笑

・この映画の主要キャストはほんの数人しかいないのだが、半分以上ぐらいが既に鬼籍である笑 アジッポも心筋梗塞で最近亡くなったとのこと。

まとめると、とにかく狂気という一言で全て事たる感じがするのだが、確かなのは、監督のソ連体制に対する強い憎悪と憤りである。ソ連邦がいかに邪悪で人間を愚弄するような政治体制であったか、それをつぶさに訴えたいという、その信じがたいほどの執念が感じられるのである。

ほんとうに、ちょっと普通ではないんだが、この「ナターシャ」で描かれるのは、中年女と若い同僚のキャットファイトと、酒飲んでゲロ吐いて暴れてるのと、オッサンとオバサンのマジモンのフxxクと、いきなりガランと切り替わって差し込まれる、本物のKGBの尋問と拷問である。

かつてはポーランドに「尋問」という名のよく似たテーマのカルト映画があったと思うが、あれによく似た衝撃を受けられる筈である(あっちのほうが拷問シーンは100倍えげつない)。

こんな映画なのに2時間半もあったのだが、体感的には1時間ぐらいであった。いきなり終わったのでびっくり!え!?もう2時間半も経ったの?!って感じである。それぐらい普通に面白い。娯楽性はゼロのアート映画だとは思うが、この手の映画としては異例なほどに面白い。時間を忘れる。酒飲んでるシーンが本物のためか、めちゃくちゃ飲みっぷりがいいし、俺も飲みたくなる笑 「DAU.退行」もぜひ観たいと思います。(←その後観たのでまた別にレビュー上げたいと思います)

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