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【映画批評】ウトヤ島、7月22日

※過去記事の復旧です

衝撃度 100
緊迫度 100
窒息度 100
総合得点 95

ひゅ~~~

い、生きててよかった、、、劇場を後にしながら心からそう思った映画だ。

軽い気持ちで観てみたらとんでもない! あやうく「ま、いいかDVDで」と見逃してしまうところだった。こいつは本気でやばい映画だった。なるべく画面がでかくて音の大きい映画館で観て欲しいところだ。

2011年7月22日、午後3時ごろノルウェー首都オスロの政府庁舎前で自動車に仕掛けられた爆弾が爆発。8人が死亡。午後5時にはオスロから40キロ離れたウトヤ島で銃乱射事件が発生。当時島ではノルウェーの伝統的な左派政党「労働党」の青年部(AUF)によるサマーキャンプが開催されており、何百人もの若者が恋にスポーツに、と夏を謳歌していた。

通信障害と警察の初動の遅れにより犯行は72分間に及び、69人が射殺された。

逮捕された犯人は狂ったイスラム原理主義者でも、血に飢えた共産主義者でもなかった。アンネシュ・ブレイビク、労働党の寛容な移民政策に反対し、明確なテロ思想をもって犯行に及んだ、キリスト教原理主義者の32歳の白人男性であった。

ノルウェーでは労働党の歴史は古く、19世紀から第二次大戦をはさんで今日までたびたび政権運営を担い、福祉国家としてのノルウェーの成長に貢献してきた。青年部のサマーキャンプは祖父母世代から綿々と受け継がれてきた伝統的な催しであった。ブレイビクはこのサマーキャンプで、元労働党首相グロ・ブルントランの暗殺を企んでいたが、彼女の到着が遅れると知るとターゲットを労働党の青年たちに変更。72分間で540発の銃弾を発射し、69人を殺害。犯行の最後の20分間で15人が殺害されたという。犠牲者は全部で77人。単独犯としては世界最悪のスコアである。

ブレイビクはノルウェーの最高刑である、懲役21年の判決を受け服役中。監獄の中のゲーム機をプレステ2からプレステ3に変えろとハンガーストライキを計画したり、2015年にオスロ大学に入学し、あろうことか政治学を専攻。これを認める、可能にしてしまう「福祉国家」ノルウェーの狂気に戦慄を禁じ得ない。

さて、↑のような前知識は余裕があれば持っていて頂いて、現実には映画を観るのに知識は必要ない。

映画は冒頭から庁舎の実際の爆発映像のあと、すぐに主人公カヤが島で母と電話しているシーンへと移る。カヤは母へ語る。「ここはウトヤ島、世界で一番安全な場所だから」

若者たちが政治を討論しながらワッフルを食べ、水泳やダンスに興じているところ銃声が鳴り響く。何が起こっているかもわからず逃げ回る若者たち。

ここから極限状態の72分間が始まるわけだが、この映画はカメラの立ち位置がとても特殊だ。カメラは主人公のカヤを偏執的に追い続ける。カヤとその周辺の映像しか画面には映らず、まるで無言の同伴者のようなのだ。つまり観客がこの島に不意に投げ込まれ、主人公との伴走を強いられるわけである。アウシュビッツに投げ込まれ、地獄巡りを余儀なくされる「サウルの息子」にそっくりだと感じた。

カヤは混乱の中、はぐれた妹の安否を気遣い、見つけ出し、一緒に逃げようと単独行動に出る。そこでカヤの視点でこの島では何が起こったのかを観客は知ることになる。文字通り一緒に走りながら。

音楽やヒューマニズムに満ちた演出は一切なし。その必要はないのだ。とことんまで突き詰めたリアリズム。それだけで映画は言葉を失うような地獄を描き切る。客はこの小さな島でカヤと一緒にライフルで追い立てられ、少しずつ追い詰められてゆく。

息もできないほどの緊張。恐怖。最近は下手なホラー映画を観ても欠伸が止まらないほど退屈だが、この映画は本当に身じろぎ一つできなくなるほど怖い。これは映画なのか??という感じである。。。凄まじい緊迫感の72分ワンカットの映像。ラストも絶望しか残らず言葉を失う。

「福祉国家」ノルウェーが単独犯としてはギネスに刻んだ大量殺人テロ事件。一体これはなんなのだろうか。欧州を覆う憎悪、恐怖、不信……この正体はいったい何なのか。所詮東アジアに住む黄色人種の自分には理解できないかもしれないが、ここまで末期的なテロがたった一人の男に可能であった、という事実が衝撃的である。で、懲役21年にしかならないというわけのわからなさ。服役中なのに大学に行けて?しまう寛容…と呼ぶにはどこかピントのずれた滑稽さ。

このような慈愛に満ちた、平等で友愛的な政策が悪をはぐくみ、この悲劇を引き起こしたように思えてならないのだが…このようなバカげた事件をやるような狂人を死刑にできないどころか、大学にまで行かせてしまうとは…遺族の感情はどこにあるのだろう? 美しい国家の躾の良い人々は報復感情など持たないのだろうか? 逆説的だがブレイビクが望むような極右国家が作られたら、ブレイビクはあっという間に死刑にされてしまうだろう。この狂人がぬくぬくとしていられるのは、ノルウェーの国家としての権力があまりにも話にならないほど弱いからではないだろうか。つまりリヴァイアサンが機能していない。そうとも取れる。

メタルの歴史上、最も悪名高いミュージシャンであるヴァーグ・ヴァイカーネスもノルウェー人の極右思想のテロリスト?だ。といってもヴァイカーネスはテロで人を殺したことはなく、金銭トラブルでお友達を銃殺にしただけだ。で、同じく最高刑罰の懲役21年。子供をたくさん作ってフランスに逃げて音楽活動を続けている。(今はどうしてるか知らないが)

音楽家であり、カリスマを持つヴァイカーネスは毛沢東を真似て思想的バックボーンとなり、ウェブ上で極右思想を広げ、賛同者が多数いるとされる。福祉国家の筈が最も悪名高いカルト・ミュージシャンと、最も悪名高い殺人犯の双方を生んだノルウェー。美しい愛あふれる政策も、人々の些末な嫉妬、憎しみ、相互不信、破壊の欲求を無視し、無かったことにするのは不可能だ。光が眩しければより暗い影がどこかに産み落とされる。

人種差別なんてどこにでもあるわけだが、今はインターネットが憎悪拡散装置として機能している。思想は数十秒で世界を駆け巡る。誰かを憎んだり、軽んじたり、軽蔑したり、ムカつくのは現代人の簡単なライフワークとなりつつある。実際に事件を起こす者は多くはなかろうが、このノルウェーのテロ事件はちょっとした些末な憎悪がこれ以上ないぐらい拡散され、増幅された結果のように思える。日本は危ない、と個人的に思う。銃が手に入りにくいのは良いことだが、似たような事件は…よく考えたら色々起こっているな、、、相模原とか秋葉原とか。

実際、ブレイビクが最も理想的な国として名を挙げたのは、日本と韓国だそうである。トランプにも日本の移民政策は称賛されていた。ちょっと考えてしまう。でも俺はノルウェーのような、大量殺人班が懲役21年で独房でゲーム三昧で大学まで行けてしまうような国には住みたくない、、逆説的だが、犯罪者に極端に甘い政策が大量殺人犯を産んだように思えてならない、、、ミュンヘン一揆をおこしたヒトラーを共和国政府が銃殺にしていれば、、、、歴史はどうなっただろう? 

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