闘病記(45)ヒーロー
起きて活動をしている昼間はともかく、夜眠ってしまっている間、尿意が全くわからず夜毎おねしょを繰り返す日々が続くと、さすがに自身のことを「オネショマン」と自嘲する余裕もなくなっていった。
バリバリと仕事をして忙しく働いているであろう同じ年頃の人たちを思い浮かべては、オムツをつけて夜毎のおねしょに悩み、怯える自分をどんどん嫌いになっていく。
夜はほとんど熟睡できず、「これは尿意かな?」と思うとすぐにナースコールを押し、車椅子に乗せてもらってトイレに駆けつけた。だが大抵の場合何も出ず「空振り」に終わる。夜勤で忙しいスタッフのみなさんに、それを報告するときは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。「空振り」が続き、自分の感じる尿意が信用できなくなっていくにつれ、ナースコールを押す回数は減り、それに反比例するようにおねしょの回数と量は増えていった。
そんな時、介護福祉士の男性がしてくれたひとつの提案はあまりにも大胆で、聞いた時は耳を疑ったほどだった。彼の言葉(丁寧に優しく説明してくれた。)を借りてその内容を具体的に伝えるならこんな感じだ。聞いたときの自分の驚きを想像しながら読み進めていただけると嬉しい。
「赤松さん、しばらくの間トイレはオムツをつけて、ベッドの上でしてしまうものと割り切りましょう。尿意を感じたらそれに集中する。時間がかかることもあると思いますが、集中して尿が出そうになったら、ベッドの上で横になったままオムツに出してしまうんです。そして自分自身が「尿意を感じたし、尿が出たな。」と思ったらナースコールを押してください。私たちスタッフが来て、オムツを確かめるようにします。尿が出ていたら、オムツを交換して気持ちの良い状態にしますね。
その時に、もし尿が出ていなかったらそれはそれでいいんです。尿意を感じてトイレに行ったら全然出なかったと言う事は誰にでもあることですから。
今は、尿意を感じたらナースコールをして、靴を履いて、車椅子に乗せてもらってトイレに向かい、トイレに座ったら座ったで、そこでまた待っている人のことも気になるでしょう?そういうこと一切をなくして、尿意を感じとること、尿を出すことに集中しましょう。これは、便の場合も同じです。「出そうかな?どっちかな?」と思ったら、ベッドの上でしてしまって構いません。そうしていくうちに、尿意や便意がどういう感覚か体が今よりもはっきりと覚えていくと思いますし、尿意が排尿につながることが増えていくと思います。
赤松さんが不快な思いをするような事はありません。それは安心してください。僕たちもプロですから。」
呆然と話を聞いていた自分だったが、彼の提案を受け入れ、病棟スタッフの皆さんに甘えさせてもらうことにした。
もう、他に手がなかった。
「僕たちもプロですから。」と言った彼のことがヒーローに見えた。
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