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GⅠ大阪杯


序文:画竜の見た夢

遠い昔の話、中国は南北朝時代の話…。時の皇帝・武帝は当代きっての高名な画家・張僧繇(ちょう そうよう)に、「安楽寺の壁に竜の絵を描いて欲しい」と命じた。
命を受けた張僧繇は寺の壁に4匹の竜の絵を描いた。それはそれは見事な竜の姿だったが、竜の瞳は白いまま、眼が書き入れられていなかった…。
人々は張に尋ねた。「どうして眼を描かないのか」と。
張はこう答えた「竜は眼を書き入れられると、空へと飛んで行ってしまうのです。」
人々は張に懇願した。「どうか竜の眼を書き入れて欲しい」と。
途方に暮れた張は渋々と竜の瞳に眼を書き入れた。すると竜はたちまち壁から飛び出し、大空へと羽ばたいていってしまった…。

「竜(りょう)を画(え)がいて睛(ひとみ)を点(てん)ず」

「歴代名画記」≪七の故事から≫「画竜点睛」とは最後の大事な仕上げ。また、ほんの少し手を加えることで全体が引き立つこと。物事の完成を前に、肝心の部分を加えること、最後に重要な仕上げを施すことを指すようになったという。

現代日本の競馬とはなんら関係のない話にも思えるが、かつて画竜点睛を欠くが如く、その瞳に魂を宿すことのできなかった、羽ばたくことの出来なかった、一頭の馬がいた。

タイキブリザード
巨躯から繰り出される、重心の低い独特な走り。
鞍上の「名手」岡部幸雄と共に、
多くの競馬ファンを魅了した。

タイキブリザードは1991年米ケンタッキー州にて生を受けた。父はSeattle Slew、米競馬無敗の3冠馬にして、22年日本ダービーを制した、ドウドュースの母方の曽祖父にあたる名馬である。母ツリーオブノレッジの父は、かつてニジンスキーを破ったことのある凱旋門賞馬Sassafras、近親の半兄にBCターフ勝ちのTheatricalなどがいる、超がつく良血馬だった。90年代の日本競馬界を席巻した馬主クラブ、大樹レーシング初期の中でも、破格で扱われた一頭だった。父に似た大型の黒鹿毛の馬体。当時は様々な方面から外国産馬、いわゆる「〇外(マルガイ)」が輸入されていた時代だったが、その中でも格別の評価を受けていた。

タイキブリザードは94年クラシック世代、あのナリタブライアンやヒシアマゾンらと同期の世代だったが、ブリザードのデビューは4歳の冬と、大きく出遅れていた。
初出走は94年2月、東京ダート1400m、遅咲きとはいえその血統から大きな期待を背負っていたブリザードは、一番人気で出走するとぶっちぎりの圧勝。非の打ちどころのない勝ちっぷりだった。この時の2着はカネツクロス、タマモクロス産駒で後の重賞馬である。
次走4歳500万下のレースでは、後のGⅠ2勝馬サクラローレルを撃破。その素質が本物であることを世間に見せつけた。タイキブリザードは、新興クラブ・大樹レーシングの新鋭として、この上ないスタートを切ったのだった。

だが、ここからブリザード苦悩の日々が始まる。
3戦目、GⅢ毎日杯へと歩みを進めたブリザードだったが、先行するメルシーステージを捉えきれず2着に敗戦。次走、福島のGⅢラジオたんぱ賞では後方からヤシマソブリンに差されやはり2着、と強い競馬を見せながらも勝ちきれない現状に陥ってしまう。
夏競馬の札幌で2戦、道新杯(OP)とGⅢ函館記念では伏兵ワコーチカコに連敗を喫してしまった。
ここまでで6戦2勝、勝った相手も敗けた相手も、サクラローレルを筆頭に後に名前を残す駿馬ばかりではあったが、この頃から「強いが善戦どまり」といったような印象を持たれてしまった。大きな要因はその気性の難しさ、思えばその血統は名馬のそれに間違いなかったが、父も母父も強さと気性難を紙一重で併せ持っていた。また幼いころから腰部に不安を抱えていて、4歳時の不振はその両面が出てしまっていた。

結局3勝目は通算8戦目、95年福島の谷川岳S(OP)で、この勝利から不振脱却、晴れて重賞戦線へ名乗りを挙げることになった…がまたしても壁にぶち当たる。
>95年GⅠ安田記念3着、
>次走GⅠ宝塚記念2着、
>秋初戦・富士S(当時はOP)2着、
>11月GⅠジャパンC4着、
>次走GⅠ有馬記念2着、
不覚を取った富士Sは別にしても、名だたるGⅠレースで全て掲示板内を確保、恥ずべきことのない戦績である。特に有馬記念の大舞台では、あのマヤノトップガンを寸前まで追い詰めていた。
しかし一歩、あと一歩が足りずGⅠ制覇までは届かなかった。

具体的な弱点は、その持続力の無さにあった。血統譲りの先行力で良いポジションを確保するのだが、反面瞬発力に欠け、ゴール直前であっさり差し切られてしまうのだ。粘り強さが足りなかった。
翌96年、産経大阪杯(当時はGⅡ)で始動すると、ここで武豊騎乗のダンスパートナーを破り勝利。待望の重賞初制覇を達成した。これは大樹レーシングにとっての重賞2勝目であった。
…実はブリザードが勝つ1週間前に、1年遅れでデビューした後輩タイキフォーチュンが、GⅢ毎日杯を制していたのだった。
ブリザードは5月のGⅡ京王杯で2着に終わると、リベンジを期して臨んだ安田記念でも、当時若手エース格だった横山典弘(笑)騎乗の、トロットサンダーに負けてしまった。
そしてこの1月ほど前には、件のタイキフォーチュンがGⅠ NHKマイルカップを制していた。
期待の大型馬として、ブリザードが叶えるはずだった大樹レーシングの野望は、全て後からやってきた後進に奪われてしまっていたのだ…。
この現状を打破すべく、大樹クラブと陣営はブリザードの海外遠征という決断を下す。

話が前後するが、タイキブリザードの管理は藤沢和雄厩舎。後のタイキシャトルをはじめ、ゼンノロブロイ、シンボリクリスエス、そして後年のグランアレグリアまで、数々の名馬を世に送り出した名伯楽である。余談だが藤沢氏は独立前、野平厩舎の調教助手を務めていた時に、岡部幸雄騎手と出会っている。この時岡部が主戦騎手として騎乗していたのが、かの「皇帝」シンボリルドルフである。

血統的にも海外の芝は合うはずと挑んだ、カナダ・ウッドパインで行われたブリーダーズカップ・クラシックだったが、結果13頭立ての13着と惨敗。得るものなく彼の地を後にすることとなった。
この遠征の代償は大きく、ブリザードは帰国後も体調を崩し体重が激減。引退まで囁かれたが藤沢氏の熱心な調教により、奇跡的なカムバックを遂げた。
そして97年、7歳にして挑んだ京王杯で1着。リベンジを果たすと、次走は3度目の挑戦となるGⅠ安田記念。1番人気に推されたタイキブリザードは、藤沢調教師と岡部騎手の執念により、生涯最高の走りを見せる。
レースはエイシンバーリンがハナを切ると、ヒシアケボノが2番手、ビコーペガサス、ジュニュインといった有力馬がそれに続く。タイキブリザードはタイキフォーチュンと並んで中団馬群の中にいた。さらにその後続には、田原成貴騎乗のスピードワールド、武豊騎乗アマジックマンらが虎視眈々と上位を窺っていた。
レース終盤、内を選んだタイキフォーチュンとは対照的に、外へと持ち出したタイキブリザード、岡部が猛然と鞭を入れる。が、抜群の手応えで抜け出しにかかったのは田中勝春騎乗のジュニュイン、残り200mを切ったところで先頭に躍り出る。ブリザードはまだ後方だ。このままでは届かない、絶望がよぎったその刹那、ブリザードは奇跡的な加速を見せる。それは今までの、屈辱を、鬱憤を、溜まったもの全てを吐き出すかのような執念の走りだった。

今度こそ!今度こそ!今度こそ!今度こそ勝った!
タイキブリザード今度こそ勝った!

7歳にして初のGⅠ奪取、ついにその大望をかなえた巨躯の黒鹿毛。
レース後、勝因を問われた鞍上・岡部幸雄は一言こう答えた。

「やっぱり、今まで生き残れたからでしょ」

緑の上に描かれた、竜ではなく大きな一頭の馬。
最後まで瞳に眼が描かれることはないかと思われたが、最後の最後に、男たちの"執念"という名の筆によって、その瞳には魂が宿された。
馬は翼が広げるかのように、大きくターフへと飛翔し、その名を歴史へと刻んだのだった。

同年11月、再びアメリカ・ブリーダーズカップへ挑戦したタイキブリザードだったが、結果は7着に敗れた。12月の有馬記念9着をもって、その現役生活に幕を下ろしたが、2回にわたる海外遠征は決して無駄ではなかった。
98年大樹レーシング所有馬、タイキシャトルが仏のマイルGⅠ最高峰、ジャック・ル・マロワ賞を優勝、日本馬として新たな快挙を達成したのだ。
もちろん管理は藤沢和雄厩舎、鞍上は「名手」岡部幸雄だった…。

遠い未来、多くの者がこの故事から学ぶはずだ。
羽ばたくために必要なこと、
それは「諦めない」ということを。

「GⅠ大阪杯、まもなく出走です」

05年種牡馬を引退後、日高~鹿児島で余生を過ごす。
14年死去、R.I.P
この画像の子はタイキシャトル、
ブリちゃんの娘化はあるのでしょうか?

はじめに~大阪杯展望~

お疲れ様です。今回も当noteにお立ち寄りいただき、誠にありがとうございます。初めての方ははじめましてです。
今回の冒頭コラムはいつもよりかはやや短め、シルバーコレクターといわれたタイキブリザードでしたが、ファンは多かったのではないでしょうか。大樹レーシングはここ数年パッとしないですが、またあの頃のような輝きを取り戻してもらいたいものです。

それでは、ここから本格的な大阪杯の考察記事をお届けいたします。
まずは「大阪杯とはなんぞや?」ということからなんですが、
JRA-GⅠレースの中では歴史は浅く、17年にGⅡ産経大阪杯から昇格、前週のスプリントGⅠ・高松宮記念に続き、春の中距離王者を決める一戦に位置付けられています。初代王者はキタサンブラックで、翌年以降もスワーヴリチャード、アルアインと名馬を輩出してきましたが、近年はメンバーレベルが低くなってきています。というのも同週にドバイでのGⅠが開催されるため、超一線級の馬たちは根こそぎ海外へと攫われてるのが現状です。今年もドウデュース、リバティアイランドらはドバイへ参戦で、少々寂しい大阪杯になりそうな雰囲気。
とはいえ世界的にトップクラスといえるまでになった日本の中距離馬たち、層の厚い中距離戦線の有力馬たちをこの後解説していきます。

昨年はジャックドール!
今年は逃げ馬不在?!

ものすごく基本的なことを言いますが、競馬というものは、逃げ馬次第で大きく展開が異なってきます。
昨年は武豊騎乗ジャックドールが逃げて、やや早い流れを演出し持続力勝負になりました。一昨年は道悪での消耗戦。この近2戦のみ前傾ラップのレース構成になりましたが、今年はこれといった逃げ馬が見当たらなく、超スローペースの展開になる可能性もあります(逃げ馬候補のバビットは除外対象)。このような展開になった時に必ず狙った方が良いのが、過去のアルアインやステファノスのような、マイルにも適性を示すスピードタイプの馬です。今年の該当馬はどうなるでしょうか…?ここから詳しく掘り下げていきたいと思います。

今週もまず勝利への必須条件を5項目、さらにはGⅠ昇格後7年からの好走データ集、最後におススメ推奨馬の紹介とさせていただきます。

急坂2回の特殊コース。
パワー、器用さ、双方が求められるが…。


春の中距離王になるための必須5箇条

関西馬である

過去10年全頭に該当。関東馬は苦戦続き、19年ブラストワンピース、21年グランアレグリア、22年エフフォーリアと上位陣は全て苦汁を舐めています。関西圏の馬で阪神の急坂コースを経験している馬から選定したいです。

父牡馬がサンデーサイレンス系

過去10年9頭に該当。急坂を2回繰り返す阪神内回り。コース形態上ペースが緩みやすく上りが速くなりやすいです。血統的にサンデーサイレンス系の種牡馬が優勢で、ディープインパクト産駒が過去6勝しています。

4~5歳馬である

過去10年全頭に該当。4歳4勝、5歳6勝とほぼ互角ですが、現4歳世代はその実力を疑われています。先日のドゥレッツァ然り、今年に入って4歳馬の目立った活躍は見られていません。今年は5歳馬から入っていった方が無難でしょうか。

ノーザンファーム生産馬

GⅠ昇格後7年で5頭該当。先日の高松宮記念とは異なり、トレンドに従っていた方が無難です。GⅡ時代よりもこの傾向はより顕著になっています。

鞍上に阪神GⅠ勝利経験

過去10年9頭に該当。非該当は19年北村友一騎手のみ。経験値の高い手腕が求められます。今年はドバイWC開催に伴い、トップ騎手が不在。騎手選びはより重要なファクターといえるでしょう。

データで斬る、GⅠ大阪杯

ここからは好走データ集、今回はGⅠ昇格後の7年から拾ってきました。お役立てください。

人気薄の激走もアリ
穴は6~9番人気

連対馬14頭の内9頭が4番人気以内。残る5頭は6~9番人気でした。過去7年のなかで5年で人気薄が連対。二桁人気は狙えませんが、6~9人気には十分妙味ありです。

穴狙いなら先行or追込み脚質

6番人気以下で連対した5頭の内3頭が道中3~5番手、2頭が10番手以下でした。荒れる時は先行馬の粘り込みか、追込み馬の一気です。
6~9人気の中でスタミナ自慢の馬、早い上がりを連発している馬がいたら要チェックです。

中距離重賞での実績は必須

連対馬14頭の内10頭に芝中距離での重賞勝ち、残り4頭に2着の経験がありました。この条件を満たせない馬は危険ですね。また良馬場で行われた6年の連対馬12頭の内10頭にGⅠでの連対経験が。GⅠ実績のある馬は優先順位を上げたいです。

前走5着以内を目安にする

連対馬14頭の内11頭が前走で5着以内でした。
6着以下から連対した残りの3頭は、
17年ステファノス (川田将雅)
21年モズベッロ  (池添謙一)
※重馬場
23年ジャックドール(武豊)

と実績上位の騎手の手腕によるものが大きかったです。
前走の着順、今回の鞍上は改めておさらいしておきましょう。

やっぱり危険な関東馬+α

過去7年、
関西馬【7-6-6-56】/関東馬【0-1-1-24】
で、関東馬で連対したのは1頭だけ昨年のスターズオンアース(2番人気)のみでした。2番人気以下の関東馬は【0-0-0-22】で全くお呼びでない現状。
想定1、2人気のタスティエーラ・ローシャムパークの取捨は難しくなりそうです。
また+αのデータとして1~2枠は【0-1-1-18】とかなり危ういデータが浮かび上がっています。内枠優勢ではと、安易に飛びつくのは危険です。
また6歳以上の馬も【0-1-0-30】となっており、先述したとおり4~5歳馬を中心に馬券を組み立てるべきでしょう。

ここまでのおさらいですが、ざっくりと

① 4歳馬≦5歳馬
② 関東馬≦関西馬
③ 父がSS系種牡馬
④ GⅠ実績のある馬と騎手

あくまで傾向ですが、
この4点は忘れずに覚えておいたほうが良いでしょう。


大阪決戦!!
今年の戴冠候補たち

ここまで読んでいただいた方、ありがとうございます。
この後恒例のイラストを使った推奨馬を紹介して、終わりにさせていただきます。今回は5頭、本命サイドから穴馬まで取り揃えております笑
どうぞご参考ください。

遅れてきた未完の大器

22年にクラシックを経験した馬、所謂「ドウデュース世代」は強豪揃い。イクイノックス、セリフォス、そしてドウデュース、彼らは皆3歳時から古馬を相手に互角以上の戦いを演じてきました。
そんな同期たちを尻目に、ローシャムパークはゆっくりと、そして着実に進化を重ねてきました。
3戦目の3歳未勝利で初勝利を飾ると、続く1勝クラスの山藤賞を勝利、春のクラシック2戦は出ずに秋初戦のセントライト記念で重賞初挑戦。ガイアフォース、アスクビクターモアには離されましたが、3着で馬券内に収まりました。次走は翌年1月で、この年の春に3戦して2勝、夏の函館記念、秋初戦のオールカマーを連勝し、一線級に名乗りを挙げてきました。3歳時のセントライト記念からOP入りまで8か月、重賞勝ちまでは10か月要しており、順調ですが、かなり時間をかけてきたなというのが率直な感想です。

ローシャムパークはハービンジャー産駒ですが、同産駒は昨年のマイルCS勝ち馬のナミュールなど、多数の活躍馬を輩出しています。母父キングカメハメハ産駒との配合は、有馬記念を制したブラストワンピース、エリザベス女王杯を制したモズカッチャンなどの重賞馬がいます。牝系は曾祖母まで遡るとあの名牝エアグルーヴがおり、かなりの良血でGⅠを獲る器としては申し分ないでしょう。

話が前後しますが、この馬の強みは、間隔を空けてる中で結果を残してきているところです。「日進月歩」というより「愚公移山」とでもいえばいいでしょうか。この馬なりのペースで緩やかに成長している、そんなイメージです。12月の香港遠征の内容が今一つだったため不安も感じられますが、帰国後は休養を当てられ、たっぷりと充電できたはずです。
基本使い込めないタイプなので、休養明けの一発目でいきなり勝負を仕掛けてくる公算は非常に高く、宝塚記念も視野に入れてるとは思いますが、まずはここを本気で取りに来るはずです。
鞍上の戸崎騎手を不安視する声が非常に多いようですが(笑)、個人的にはそこまで心配していません。代替え開催の秋華賞ではアカイトリノムスメで同コースを制しており、なんだかんだでやってくれるでしょう。
むしろ最も怖いのは、データ編で掲載したとおり、大阪杯は関東馬にとって鬼門中の鬼門。勝利すればおよそ四半世紀ぶりの快挙となります。
着実に歩みを進めてきたローシャムパーク。同期のライバルたちが大輪の花を咲かせてきた中、遅れてきた「開花宣言」に注目してみたいと思います。


覚醒を果たした技巧派の一撃

21年ホープフルS王者のキラーアビリティが、雌伏の時を経てGⅠ2勝目を狙いに来ました。
同年6月の阪神新馬戦でデビューすると、4戦目にしてGⅠ戴冠を果たしました。大いに期待を集めましたが、クラシックでは目立った活躍はなく、12月のGⅢ中日新聞杯は勝ったものの、当初期待されていたほどの勝鞍上げられませんでした。昨年は中距離重賞を転戦するも5戦して勝利なし、完全に低迷期に入ったかのようにみえました。
転機になったのは前走、2月サウジアラビアで行われたネオムターフCで、この芝2100m国際GⅡレースで2着に入りました。復調&健在ぶりをアピールし、3年越しの国内GⅠ制覇を狙います。

キラーアビリティはディープインパクト産駒、この馬についてはもはや説明不要でしょう。リーディンサイアーとしてトップを走り続け、1800頭もの産駒数を誇り、記録した産駒の重賞出走回数は累計2918回。そのうち勝利回数291で、2010年から日本のGⅢ~GⅠレースにおいて、産駒が出走した場合10回に1回勝っていることになります。こと大阪杯においてはディープ産駒は抜群の相性を誇り、通算勝利数は6を数えます。

キラーアビリティは昨年も出走してますが、出遅れから後方スタート、ジャックドールが緩みのないラップを刻んだため、最終直線ではなすすべなく終わりました。
しかし、穿った見方をすれば、
昨年13着に敗れたキラーアビリティの走破タイムは1:58.3
22年優勝したポタジェの走破タイムは1:58.4
比較するといかに昨年のペースが特殊だったのかが分かります。
武豊恐るべし。
繰り返しますが、今年が昨年ほどのペースになることはどうしても考えにくく、後方からの差し・追込み勢の台頭は十分に考えられます
そして今回収集したデータから上げた、勝利条件を最も満たしているのが本馬です。曰く、関西馬・5歳馬・ディープ産駒・ノーザンF生産・GⅠ実績・鞍上、下位人気の追い込み馬という点も、魅力を感じます。
GⅠ戴冠から時が流れましたが、早熟とは言わせない、真の覚醒を迎えたキラーアビリティに再注目です。


べラジオ軍団のスピードスター

ドウデュース世代に比べると、一枚も二枚も格が下がる、といわれている現4歳世代から1頭、ベラジオオペラを推したいと思います。
ベラジオオペラは22年11月の新馬戦でデビューすると、3月のGⅡスプリングSまで3連勝、勢いままに3番人気でクラシック初戦の皐月賞へと挑みました。ここでは重馬場だったことと、鞍上田辺騎手の騎乗内容が今一つだったため10着に敗れましたが、新コンビとなった横山和生騎手と共に臨んだダービーで同タイムの4着、休暇明け直行となったチャレンジカップで1着、今年始動戦の京都記念で2着と、度外視していい皐月賞以外では全て掲示板内に収まっており、今回出走する馬の中でも無類の安定感を誇っています。

ベラジオオペラの父ロードカナロアは短~マイルまでの距離でGⅠ6勝を挙げた短距離王でした。種牡馬としてはアーモンドアイやサートゥルナーリアのような中距離馬も輩出しています。近親馬には秋華賞馬エアメサイヤ、AJCCを勝ったエアシェイディらもいますね。皆、中距離路線で活躍した馬が多いですが、本馬も母父ハービンジャーの影響が色濃く、機動力に富み、阪神内回りは問題なくこなしてくれるでしょう。

べラジオオペラは前走1人気に推された京都記念で、プラダリアに敗れ2着に終わっています。この時の斤量はオペラ57㌔、プラダリア58㌔。今回両馬の斤量はともに58㌔と、妥当に考えれば前走以上に不利な状況にあることは明らかです。しかしながら、この馬が大きく崩れたのは道悪だった皐月賞だけで、阪神コースは2戦2勝、同コースで行われた重賞チャレンジCも勝っています。また近走の上がりタイムを比較してみたところ、日本ダービー33.0で最速、チャレンジカップ34.7で上り2位、京都記念34.6上がり最速と、最終の直線で切れ味を発揮しています
京都記念こそプラダリアの粘り強さに敗れましたが、今回森タイツは逃げ不在の後傾ラップな展開を予測しています。終盤の追い比べになった際は、オペラに一日の長ありと踏んでいるのですが…。前走の敗戦を糧に躍進する、4歳世代の意地を見せてもらいたいと思います。


極上の音色を奏でる名牝の血筋

4歳馬世代の牝馬から一頭、ハーパーを紹介します。
大阪杯といえば近年はクロノジェネシスに代表されるよう、牝馬の活躍が多く、昨年も22年クラシック2冠馬であるスターズオンアースが2着に入りました。先述した通り超一線級はドバイへ向かうため、今年も「チャンスあり」と踏んだ牝馬たちが大阪杯へエントリーしてきています。
ハーパーは3歳初戦のGⅢクイーンカップを勝利すると、クラシック3冠全てに出走。桜花賞4着、オークス2着、秋華賞3着、古馬重賞エリザベス女王杯で3着、と勝ちきれないまでも安定した走りを続けてきています。年内最後のレースとなった有馬記念では初の古牡馬との混合GⅠとなりましたが、堂々9着という結果を残しました。

ハーパーはハーツクライ産駒、この産駒の特徴は母父トニービンの影響が濃く、中距離から長距離まで幅広くこなせる印象です。潜在的なスタミナに可能性を感じます。そこに加え母セレスタはアルゼンチンのマイルGⅠ勝ち、母父Jump Startは米単距離重賞制覇の実績があり、この影響からマイル戦でも戦い抜けるような、スピード・追走力に秀でています。万能タイプといった表現がぴったりですね。

この馬には相手なりに立ち回れる器用さがあり、世代限定戦とはいえマイル重賞を勝っています。前項で述べたようにマイルで通用するようなタイプは、大阪杯では活きてきます。牝馬でもそれは代わりません。
またクラシック戦線では馬群を割った経験もあり、古馬になった今大きな武器になっているでしょう。
エリ女の時にもハーパーを解説しましたが、こういう万能タイプは他馬にミスや不利があった場合、必ずと言っていいほど浮上してきます
アタマまで、というほどの自信はありませんが、混戦模様の春GⅠにおいて単穴・複穴候補にはぴったりの一頭だと思います。


大草原を駆けるが如く

前走京都記念1着、5歳世代のディープインパクト産駒からもう1頭、プラダリアを解説して今回のnoteを締めたいと思います。
プラダリアは現5歳世代として青葉賞を制覇、次走の日本ダービーにも出走し5着でフィニッシュしています。
以降は国内中・長距離路線の重賞を戦い続け、昨年10月の京都大賞典を勝利、今年に入って京都記念も制しここまで重賞3勝を挙げています。

プラダリアもまたディープインパクト産駒で、大阪杯への適性が高いことは先述した通りです。特に母父クロフネの血統には、ステファノス、レイパパレがおり、前者は大阪杯2着、後者は1着・2着を1回ずつと抜群の相性を誇っています。特に21年大阪杯のレイパパレは、あのコントレイル、グランアレグリアを破っての戴冠ということで、今回調子が上がってきているプラダリアにも大いに期待できそうです。

プラダリアの最大の特徴は、これは有馬記念の際のnoteでも解説しましたが、間隔が詰まっていく中でその能力を発揮する点にあると思います。典型的な叩き良化型といえるでしょう。 
先に紹介したローシャムパークよりも4戦多い15戦を既に消化しており、青葉賞以降はGⅢ一回のみ、あとはGⅡ・GⅠだけ、全て重賞レースに出走しています。経験値だけでいえば今回出走の4~5歳馬の中では群を抜いているといえます。大外枠を引いた有馬記念こそ14着と大敗を喫しましたが、前走京都記念を勝利したことで、ここは人気を集めそうです。
スタミナが豊富で長く脚が使えるため、消耗戦になった際は間違いなく上位に食い込んでくるでしょう。一時期不安視されていた気性難もここにきて改善されてきた感があるのも心強く思います。
ただし再三指摘してきた通り、後継ラップの展開になった場合は後方から刺される可能性も孕んでいるため、その点には十分注意が必要です。
プラダリアの管理は池添学厩舎、鞍上を務める池添謙一騎手の実弟です。お互いにとっての夢である、兄弟タッグでのGⅠ制覇まであと一歩のところまで来ています。大願成就となるか、要注目です。

おわりに ~その他の馬について~

以上が今回の大阪杯攻略noteとなります。
先週に引き続きGⅠレースということで、相応の分量になりましたが、全部読んでいただいた方がおりましたら、厚く御礼申し上げます。

先週の高松宮記念同様、結構な混戦ムードとなっています。おそらく皆さんも頭を悩ませていることでしょう、自分もそのうちの一人です笑
そんな中少しでもお役に立てればと思います。立てばいいな。

今回紹介しなかった馬の中にも、推奨・解説したい馬はまだまだいますが、やはり文量の問題もあるのでここまでとしておきます。
個人的にはタスティエーラは今回パスしようと思っています。印を打っても紐までかなと…。
器用な立ち回りは魅力ですが、何度も言うように逃げ馬不在の後傾ペースで見立てていますので、上がりが使えないこの馬は展開的に向かない可能性が高いです。
ダービー制覇の時も含め、タスティエーラは逃げ馬でもないにもかかわらず上がり最速で勝ったことがありません。

決定打となる武器を磨かずにここまで来てしまった感はあるので、ダービーの時同様、Dレーン騎手でも騎乗すればまた評価も変わりますが。松山騎手では少し心許ない気もします。もちろん上位騎手の一人ではありますが…。

といった感じで今回のnoteを校了とさせていただきます。怒涛のGⅠウィークはまだまだ続きますので。来週は桜花賞ですか…。
なかなか忙しいですが、投稿する予定です。なんのネタにしようか…。

いつも応援の声をかけてくださる方、本当に励みになっています。
改めて御礼申し上げます。
では、また…。


今回参照にさせていただいたサイト

フジテレビ中継の97年安田記念は必見です。滅茶苦茶面白いです。
YouTubeにアップされている方、感謝申し上げます。


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