見出し画像

「空気」「生き甲斐」をテーマにした選書

生きていく上での選択肢と、その選択を左右する空気感。STAR*15号掲載記事より、「空気」「生き甲斐」をテーマにした選書。

***

「私」から「私たち」へ 
「贈り手」を育て、「コミュニティ」を育てるカフェの仕事論

東京都西国分寺のカフェ「クルミドコーヒー」。カフェの席に着くと、テーブルの上には「おひとつどうぞ」とのメッセージとともに、ころころと可愛い殻付きクルミが置いてあります。このクルミは、日本一のクルミ産地である長野県東御市の国産生クルミ。外国産クルミに比べ3倍の価格もする国産クルミが、無料で提供されている変わったカフェです。

 クルミドコーヒーには、「まず贈ることから始める」という心持ちがあります。著者で店主の影山さんは、「現代人は贈ることを忘れ、ただ受け手としてサービスを消費している」と、いまの社会に警鐘を鳴らします。その流れにちょっとだけエッセンスを加えるのがこの「サービスクルミ」なのです。

 資本主義の世界では、消費者が「できるだけ得をする」ことを目的に経済活動を行います。一方でサービスを提供する側も、できる限り損をせず儲けを出すために、さまざまな試行錯誤を重ねます。確かにこういった経済活動も必要ではありますが、そんな「自己利益を増大する経済」だけで、本当に豊かに暮らせるのでしょうか。そんな疑問に対し、本書は豊かな暮らしのヒントを示します。この本を読みながら(クルミでも口に入れて)、これからの時代の生き方・働き方のヒントを掴んでもらえれば幸いです。

PROFILE / KAZUNARI TAKAYAMA
高山 和成。学塾 誠和学舎 塾長、NPO法人 総社商店街筋の古民家を活用する会 副理事長、一般社団法人 岡山次世代スクール協会 理事

***

深い思考の海に
日常の鮮やかさを知るエッセイ本

 一日に人間は約 9000 回の選択をしているらしい。これは日常の些細な選択も含まれる。もし、この選択を全て最善手にできたらどうだろう。人生が上手くいくのではないだろうか。

 でもそれは中々難しいことだ。難しいが熟考でも直感でも選択していかないことには自分のゴールには近付けない。ここ最近の地球レベルで不穏な空気の中、みんな大変な思いをして考えているのではないかと思う。その考える過程には考えの基準となるものが必要になる。ならそれをどれだけの人が明確に持っているのか。

 この『つんつんブラザーズ The cream of notes8』はベストセラー作家の 100 個の思考がつまったエッセイとなっているので自分の判断基準をつくる参考になるはずだ。また、内容は各項で完結しているので著者の多面的な視点を手軽に楽しめる。

 本作より、自然を観察すると、すべてものが「いなくなる」運命にある。生物は死んで、生物ではなくなり、すべてが分解する。「誰もいなくなった」よりも「誰もいなくならなかっ命にある。生物は死んで、生物ではなくなり、すべてが分解する。「誰もいなくなった」よりも「誰もいなくならなかった」の方が不思議な状態だ。といったリアルな視点で大小様々な問題提起に答えている『すべてが F になる』、『スカイ・クロラ』シリーズなどの著者によるエッセイ。
 読むことで自分のなかに新しい受け止め方が生まれ、日常がより鮮やかになる一冊。

不器用な天才たち

 天才には二種類あり、それは人類の発展を担うために能力を使う者と自分のために能力を使う者である。そして『25 時のバカンス』に出てくるキャラクターは皆、後者だ。

 彼らは自分を犠牲にすることすら厭わず一途に人を愛する。これがこの作品集のテーマであると以前拝読した著者のインタビューで仰られていた。
他人からみたら愚かな行為でも、彼らにとっては最上級の愛情表現である。例えば、あるキャラクターは弟の為に貝になる。まるで理解し難い物語でも、痛々しい程の愛として説明され最後には納得してしまう。

 この作品は何度でも読み返して欲しい。作中では、重要なことほど台詞にされない。『25時のバカンス』を通して、読者が行間を読み取る贅沢と共に多くの人が抱える孤独や不安に対する救いの言葉を見つけられるはずだ。

天才科学者と言われている西乙女は久しぶりに再会した弟と海辺で休暇を過ごす。そこで貝になってしまった自身の秘密をあかす。(『25 時のバカンス』)
土星の衛星パンドラで不良の二条ナナは不思議な少女と出会い心を通わせていく。その少女の目的とは何か。(『パンドラにて』)
将来を約束された少年は試験日に家出をし、その先で出会った男と兄弟ごっこをはじめる。彼らの行きつく先はどこか。(『月の葬式』)

PROFILE / MANAMI OMIYA
フリーペーパーSTAR*編集部。ジャンルを問わず本を読むことが好き。
読書をつうじて日常の生活や現代社会のなかでひっかかった疑問について考えていく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?