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私が想起するディスレクシアな人々1(K君)

ディスレクシアを理解するために、私の知っている具体例をあげてみます。

私は、ディスレクシアであるかどうかを診断できる立場の人間ではないので、こういう話をするのは憚られるのですが、「あー、この人はディスレクシアの傾向があるんだなー」と思い、ディスレクシアの勉強をしている時に想起している人というのはいます。はっきりとそうであるだろうと想起する人は4人。今後その4人を文字で表すことにします(イニシャルではありません)。K君、S君、Mさん、そして私自身です。私の考えが、その少ない対象者をイメージして進められているので、若干の偏りがあるかもしれないことは予めお断りしておきたいと思います。
そして、どうしてそう思ったかを書いておくことは、ディスレクシアを具体的にイメージするのを助けるかもしれないし、私の考えをなぞることで、私の考えの中にあるかもしれない偏りを、後々検討できることになるのではないかと思っています。

私は自分の経営する学習塾で、発達障害と診断された生徒を教えることもあり、その対応を勉強をする中で、「ディスレクシア」という言葉に出会いました。

そうして私が初めて「あ!こういう状態をディスレクシアというのかもしれない!」と概念と実際が結びついたのが、生徒の一人であったK君です。

彼が中2の終わりの3月だったと思います。私は授業の組み立ての参考にするために、1対1でK君の学力をチェックをしていました。まず数学のチェックを行い、K君は学校の成績はそれほど良くないけれども、一緒に問題を解いていると、なかなか数学的な良い発想をするので、賢い人なんだな、と感じていました。
ところが英語になると、急に様子が変わりました。はじめ、あれ?と思ったのは、英単語をフォニックス的に教えていたときのことです。彼は英語ができなくて、makeが読めませんでした。。こちらが読むと意味は「作る」だと答えます。「メイク」は「作る」だ、とわかっているわけです。「-ake」を「エイク」と読むんだよ、と軽く流してから、「じゃぁ、これはなんて読むと思う?」とtakeを示しました。彼は、「あかさたな」に対応するローマ字が「ーkstn」であることはわかっていました。私が「t・・・t・・・・t・・・えいく」「テイクと読むね」と誘導します。このあと、大抵の生徒はlake, cakeを読むことができます。ところがK君はこの4語の発音について、何度もどう説明しても理解できませんでした。なんだかおかしいな?と思った瞬間、ディスレクシア、という言葉が浮かびました。「K君さ、アルファベットの文字のbとd、pとqとか、混乱する?」「あ、さっぱりわかんないす」「そーか、ふーん。今まで小学校でも良いけどさ、学校の授業で文字を書くときとかに困ったこと、ってある?」「オレ、板書を写すのがすごく遅いんです。みんながとっくに終わっててもできなくて、先生が待っててくれたりするじゃないですか。みんなから”まだなの?””早く〜”とかよく言われて、つらい・・・」「読書はするの?」「本は読みません、ていうか、読めない」「でも、漫画は読むんだよね?」「あれは絵を見てるんです。絵を見れば大体話がわかるから。文字は読んでいません」。チェックしてみると、ひらがなはたどたどしく読めるものの、漢字が混ざるとさっぱり読めません。
私はその頃まだ軽くしかディスレクシアのことをわかっていなかったので、そう判断するのは本当に危険だと今は思うけれど、「ああ、この状態がディスレクシアなんだ!」と思いました。
彼に対してはクラス授業にはせず、1体1指導を行うことにしましたが、授業内容は試行錯誤しました。彼にとっては生涯の中で重要になるであろう、キーボードによる「タッチタイピング(ブラインドタッチ)・・・ローマ字入力で」を授業時間中に教えました。彼は夜に友達とチャットをするというので、それを利用したのです。彼は夢中になってタイピングを練習し、かなり早くマスターすることがきました。そして、その副産物で、英語をローマ字読みはできるようになり、そこからの推測で英単語を読んで意味がわかるようになり、英語の成績が徐々に上がっていきました。そんなふうに、私自身は理論的なことはろくに分かっていなかったものの、たまたまやった指導が功を奏したりもしました。

*Supporting children with difficulty of reading and writing 単元2の日本語訳より↓
「ディスレクシアは、不透明なシステムに比べると、透明な正書法をより簡単に学ぶ能力を持っています。」「研究によると、ディスレクシアの生徒の言語の中の一つが他より透明であった場合、この言語で読み書きすることが音韻の置き換え(recoding)ルートのトレーニングに役立つかもしれないそうです。これにより透明度が低い言語の読みや綴りや書きの習得の助けになるかもしれません。」

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