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暗闇の世界に行ったら日常の見方が変わった話②

前回のお話はこちらからどうぞ。

・前回のあらすじ
疑似全盲となった我々は、あらゆる場所を触りながらお祭り会場へ向かう。途中トラブルがありながらも、遂に会場に辿り着いたのだった。


それでは続きのお話です。
暫くすると、祭り会場の奥へ消えて行ったガイドさんが戻ってきました。
ここでグループを二つに分け、更にペアを作ることになりました。分け方は単純明快でじゃんけんでしたが、声で何を出したか宣言する方法になります。(この時つい手の形もグーやチョキにしていたのですが、よく考えたら不要でしたね。笑)

最終的に元々の友人とペアになったのは奇縁でしたが、もう一人の友人は別グループになったようでその後声も聞こえず、闇の彼方へ消え……たわけではありませんが、本当に最後までどこにいたのやら分かりませんでした。
前回書き忘れましたが、体験開始前に1人1,000円を持っておくと良いと言われていたので、お小遣いの準備はバッチリです。
グループはそれぞれ輪投げ屋とヨーヨー屋のどちらかへ先に行くことになり、私たちはまず輪投げ屋に向かいました。

輪投げ屋にはちゃんとテキヤさんがいて、参加者の内1人が輪投げを手助けする係(後に交代)になって輪投げ台を叩くように促されました。投げる方は音に向かって輪投げをします。見えていても難しいのに、まともにできるのか不安です。しかしきちんと台には当たったようでした。残念ながら輪に入った人はいませんでしたが、意外とちゃんと音の方向には投げられているようでした。

次にヨーヨー屋に向かいます。
昔ながらのヨーヨー釣りが懐かしく、また勢い余って触れた水面が思った以上に刺激となって冷たく感じました。しかしヨーヨーの先っぽにある穴に棒を通すのが不器用な私には至極難しい事でした……何しろ片手しか使ってはいけないのですから。しかしやはり器用な方はいるもので、同じグループの1人は3つも取れていました。

それぞれの遊びを終えた後は、おやつタイムです。
1人1本のラムネと、箱の中から好きな駄菓子を選べるシステムでした。この駄菓子選びが完全に闇鍋状態で面白い。私は少々安全牌を取ってしまって、明らかにこれはうまい棒に違いない!!という長い棒のお菓子を手に取りました。一緒にいた友人は何だか分からない薄くて小さな箱?のようなお菓子だと話していました。
この時ガイドさんが代理でお金を回収していたので500円玉を渡しました。その際彼が「ああ、これは新500円だね」といって受け取った事が酷く印象的でした。旧500円玉と新500円玉に感触の違いがあっただなんて……!小さな事ですが、世界は知らない事に満ち溢れていると至極感じた出来事です。
(加えて言うならば、私は丁度いい金額を手探りで探すだけで少し時間がかかりました。)

ラムネなんて凄く久しぶりに飲みます。開け方は覚えているものの、ビー玉を押し込むための蓋を落としたらもう取り戻せる気がしません。必要以上に慎重になりながら飲んだラムネは随分おいしく感じました。
駄菓子は思った通りうまい棒でした。スタンダードなコーンポタージュ味、懐かしいです。友人はその場で食べていなかったので結局真相は闇の中でしたが……他には何があったのでしょう。駄菓子屋に行きたくなりました。

おやつタイムを終えた後、輪になって盆踊りを踊ることになりました。
実は盆踊りなんて初めてでして、体験前にガイドさんに教えて頂いておりました。まさか外国の方に炭坑節を教わる事になろうとは、人生何があるか分からないものですね。

全員が集合し、手を繋いで円になります。そしてぐるぐると炭坑節を踊る……はずだったのですが、暗闇というのは本当に平衡感覚や距離感を失わせるようで、前の人についていっているだけのはずが、いつの間にか目の前にあった壁に激突したのも最早いい思い出です。
言い訳すると他の方も真っすぐに、とはいかなかったようです。最終的にどうあがいても円になって回るのは難しそうだという事で、縦に2列に並んで踊りました。

最後に向こうの方から光が見えますという宣言の後、彼方から強い光が漏れ出してきました。遂に暗闇の世界から出て瞬間、私の目の中に光が溢れました。「目があああああ!!」とは叫びませんでしたが、眩しくて暫く目を瞑っていました。

最後に全員が同時に座らなければ使えないテーブルに座り、感想を絵日記で書く事になりました。
自分の絵の貧相さに悲しくなったものの、絵日記だなんてこれまた懐かしいものを思い出させて貰えて嬉しくなりました。

この時初めてまともに他の参加者の方々の顔をまじまじと拝見しました。ついさっきまでニックネームで呼び合っていた相手なのに、顔の見える状態で会うと何故かできなくなってしまうのが大人の不思議な所です。
それでもこういった一期一会の方々と良い意味で半強制的に交流の機会を持てた、というのもとても良い思い出になりました。同じ場所、同じ事をしていてもその場にいる人とお知り合いになる機会は限られていますからね。

90分間の体験は楽しくて、あっという間の出来事でした。夢から覚めたようでいて、心の中には印象深い思い出として刻まれています。
体験を終え建物からで出た後周りを見渡してみると、比喩でもなんでもなく、世界はこんなにも沢山の色に満ち溢れていたんだなと心底実感しました。

酷く個人的な話ですが、私は昔病気のためにかなり強い食事制限をせざるを得ない時期がありました。その病気はもう完治していて何も心配ありませんが、基本的に食べる事が大好きな私ですので、当時は好きな物がほぼ食べられずにいる状況が精神的にもかなり苦痛でした。
病気が回復に向かい、多少制限を解除してもいいという頃、母が白身のお刺身を買ってきてくれました。普段なら少し淡白に感じる魚です。しかし、その刺身のおいしさと来たら!!味わい深く旨みがあって、何と素晴らしい味でしょうか!この時は本気で世界で一番美味しい食べ物に感じました。
そんな経験もあって、健康で美味しくご飯を食べられる事に多大なる感謝を覚えたのです。

種類の異なる出来事ですが、普段の当たり前は失って初めて有り難みが分かるという共通点があるなと思いお話しさせて頂きました。
当たり前にあった視覚を失う体験、いかがでしたでしょうか。まだ未体験の方は興味を持つ一助になっていれば幸いです。
最後まで読んで下さり、ありがとうございました!

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