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2021年ベストアルバム&ライブ(佐藤優太)

イントロ

既に多くの方が指摘していることですが、昨年や一昨年と同様に2021年もまた、誰もが年間ベストに推したくなるような──例えばケンドリック・ラマーの『To Pimp a Butterfly』(2015年)やフランク・オーシャンの『Blonde』(2016年)のような──アルバムは少ない年だったのかなと思います。

そうしたシーンの前提条件に加えて、個人的な生活にも大きな変化があり、音楽の聴き方がますますパーソナルなものになった一年でした。9月にイギリスに引っ越したことでイギリス出身のアーティストの作品を意識的に聴く場面が増えました。あと後述する通り、ロンドンに来て「いま本当に観たい」と思えるアーティストのライブを見る機会が格段に増えたことは、音楽リスナーとしてアルバムや楽曲を聴く楽しみをも広げてくれました。

一言でいうと「いままで以上に自分のリスナーとしてのテイストについて考えて音楽を楽しむことの多い一年だった」と総括することができるかも知れません。(言葉にしてみると、とても当たり前な話ですが。)

2021年の私的ベスト“10”アルバム

1. Tirzah - Colourgrade
2. L’Rain - Fatigue
3. Floating Points, Pharoah Sanders & The London Symphony Orchestra - Promises
4. MIKE - Disco!
5. Dry Cleaning - New Long Leg
6. Jazmine Sullivan - Heaux Tales
7. Grouper - Shade
8. Tyler, The Creator - CALL ME IF YOU GET LOST
9. C. Tangana - El Madrileño
10. 石橋英子 - Drive My Car Original Soundtrack

セレクトの背景にある私自身のテイストについて、「トリップ・ホップとポストパンクの現在系」を求めていた一年間だったという気がします(もちろんそういう文脈から外れる作品もあります)。

ティルザは、もし「現代のトリップ・ホップ」という特集をするなら筆頭で取り上げたいアーティストです。トリップ・ホップは短命かつ、ラベリングされたアーティスト自身にも嫌われた不幸なタームでしたが、個人的には同時代の米国産「ネオソウル」に大西洋を挟んで対応するジャンル融合的なアイデアとして、いまも面白い概念なのではと思っています。エッジィで、スウィートなティルザの歌とサウンドに、とても刺激を受けた一年でした。

レインもまたとても(もしかしたらいま一番)ジャンル融合的なアーティストです。個人的な下半期のテーマとして「新しい環大西洋アフロ・ディアスポラ音楽」というものがあったのですが、それを象徴する存在だと(勝手に)思っています。音楽性はもちろん、Twitterでも色々な発信をして、地域を超えて点と点を繋げている、その批評性も面白かったです。あと、このライブ映像がすごく好きでした。

フローティング・ポインツファラオ・サンダースのアルバムは、BGMとして聞き流すことも集中して聞くことも可能なフラクタルな音楽体験を感じて、頻繁に部屋の中で流していました。マイクのアルバムは、今までの彼のロングレンスの中で最もまとまりを感じる作品で、サンプリング・アートとしてのヒップホップの魅力を、いま最もふくよかに感じられる音楽の一つだと思います。

ドライ・クリーニングはメンバーが30代というのも納得の熟練の演奏で、ともすればフラジャイル過ぎるきらいもあるいまのUKのロック・バンドの中で頭一つ抜けた迫力がありました。ビッグ・シーフもそうですが、やっぱリズム帯がイケてるバンドはかっこいい。ジャズミン・サリヴァンは自分にとって、歌の技術面で最もフランク・オーシャンとの共通点を感じるシンガーで、毎回上手すぎる歌にうっとりします。非の打ちどころのない完璧なアコースティックR&Bアルバムだと思いました。

グルーパーの音楽の中には時々エリオット・スミスが聴こえます。あとPitchforkのこの企画ページブリアル『Untrue』をこの25年間のベストに挙げて、自作との録音上の共通点を語っているのにも妙にグッときました。タイラー・ザ・クリエイターはアルバムを出すごとにどんどんソング・オリエンテッドになっていて、「ラッパー・ソングライター」とでも呼びたい独自の路線を突き進んでいます。

セー・タンナーガはこのリストを作る間際に知りましたが、欠けていたピースが埋まる感覚がありました。同じラテン文化圏のバッド・バニーもそうですが、アメリカやイギリスのアーティストには希薄な「メロディアスな歌への衒いの無さ」がモダンなプロダクションと組み合わさることで、新しい時代のロック・ミュージックが生み出されていると感じます。石橋英子は映画『ドライブ・マイ・カー』のサントラですが、もしかしたら映画以上に感銘を受けたかも。映画音楽としてはやや「くどい/くどくない」の境界のギリギリを突く極めて芳醇なメロディ。映画音楽作家としての今後のキャリアにもますます期待してしまう素晴らしい作品だと思いました。

前述の通り今年は自分のテイストについてよく考える一年でした。二十歳の頃にレディオヘッドに魅せられて、その後はインディ・ロックやブラック・ミュージック、(J-POPを含む)メインストリームのポップスへと夢遊病のように渡り歩いてきたリスナー遍歴を経て、もう一度自分の好きな音楽について考えてみたい、とよく考えていました。

2021年の私的ベスト“5”ライブ

2021年に観たライブの中で、特に印象的だったものを5つ以下に挙げます。

1. Amaarae, 11月3日, ロンドン・カラーズ
2. KeiyaA, 11月13日, ロンドン・スペース289
3. MIKE, 12月8日, ロンドン・XOYO
4. TW presents: A GREAT DAY IN LONDON, 12月4日, ロンドン・クイーン・エリザベス・ホール
5. Koreless, 11月13日, ロンドン・オヴァル・スペース

2位と5位の二つはともに「Pitchfork Music Festival London」の中で見たパフォーマンスです。

アマーレイはロンドンで初めて観たライブということに付け加えて、彼女の才能や、ロンドンのアフロポップ熱を体感できたという意味で、とても感慨深い、人生の中でも指折りの体験となるライブでした。この公演の短評は現在発売中の『ミュージック・マガジン』にも執筆しています。

ケイヤーは昨年の『Forever, Ya Girl』が本当に好きなアルバムだったので、どうしてもライブが観たいと思っており、その念願が叶ったライブでした。この日はフェス仕様のDJセットで最初は少し残念に感じたのですが(同時期に行われた単独公演はバンド・セット)、その分、たった一人で機材をマニピュレートして演奏する姿に、自宅で宅録をしながら音楽を作っている普段のアーティストの姿を重ねてしまう、とてもインティメイトな体験となりました。

マイクはアルバムでも名前を挙げましたが、ライブでも感銘を受けました。彼はアール・スウェットシャツ周辺というか、今のアンダーグラウンド・ヒップホップの一角を担う一群、のさらに一翼を担うラッパー兼プロデューサー。どうしても日本では情報が入って来づらくて、どこか謎めいたイメージを抱いていましたが、そんな曖昧模糊とした印象とは裏腹の、喉の太いヴォーカルを生かした(本人も物理的にとても大きい)、とてもハートウォーミングなステージングでした。。

「TW presents: A GREAT DAY IN LONDON」は「トゥモローズ・ウォーリアーズ」というチャリティ的な音楽期間の主催する30周年記念ライブで、ヌバイア・ガルシアシャバカ・ハッチングスなどの豪華な出演陣に加えて、現役生徒を中心にした凝ったプログラムが印象に残る、とても貴重なステージでした。この公演については、現在公開中のTURNでの連載でも詳しく書いております。

コアレスのライブは、2メートル先も霞むような深いスモークの中で、白色のストロボと完全に同期した爆音の演奏が繰り広げられる、体験としてとてもインパクトの強いものでした。「オウテカのライブを初めて観た人はこんな気分だったのかな〜」と想像したくなるフロア環境の異質さに加え、ダンス・ミュージックの要素を用いながらも、そのコミュニケーション的なイディオムを脱構築するような、コアレス自身の音楽的な特異性も改めて浮き彫りになる素晴らしいライブでした。

ここに挙げた公演のブート映像が私・佐藤のInstagramアカウントにアーカイブされています。ご興味のある方はぜひ覗いてみて下さい。

アウトロ

イントロにも書いた通り、今年ロンドンに来て、多くのライブを観れたことは個人的にとても良い経験でした。実は僕自身もライブ業界で働いていた身でもあるのですが、日本にいる頃は「ライブより音源の方が好きかも」と心のどこかで思っている自分がいました。

ただ、ロンドンで改めて自分が本当に好きだったり観たいアーティストのライブを観ていると、それらを経験することで楽曲が文字通り「体験化」され、音源の魅力もよりフォーカスされて聴こえてくるということを改めて実感しました。オミクロン株の感染が広がっている現在、2022年以降、またこの秋と同じようにライブを観ることができるかは、いまのところ全く分かりません。ただ、ここで書いたような個人的な感慨は変わらずに持ち続けていたいと思います。

いまは日本ではなかなか叶わない海外アーティストのライブですが、それらが以前のように一日も早く再開されることを祈りつつ、記事を終えたいと思います。(佐藤優太)

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